2019年9月、台湾の文化発信拠点「誠品生活」が、東京・日本橋にオープンしました。出店に当たり、交渉の最前線で奮闘したのは、三井不動産の篠原菜美さん。「ベストでなければ、断固『NO!』。台湾の人たちの、あくなき追求心に触れ、仕事観が変わりました」と話す、彼女のストーリーを紹介します。

篠原菜美さん 三井不動産 広報部
2009年に国際基督教大学(ICU)を卒業し、三井不動産に入社。ビルディング本部法人営業統括部、経理部財務グループで資金調達を担当した後、17年より商業施設本部にて誠品生活日本橋開業に向けた業務に携わる。20年4月より広報部に在籍。

「誠品生活」オープンに向け奔走する日々

 2019年9月。台湾の文化発信拠点として人気のカルチャー体験型店舗「誠品生活」が、日本にオープンした。東京・日本橋の「COREDO室町テラス」にある「誠品生活日本橋」。出店に当たって交渉の最前線にいたのが、三井不動産の篠原菜美さんだ。

 篠原さんが「誠品生活」の事業に本格的に加わったのは18年初頭。誠品生活と三井不動産がパートナーとなり、日本一号店は日本橋で、という大枠は約束していたが、具体的な契約書は交わされていない時期だった。

 台湾の誠品生活と日本の三井不動産のスタッフとで綿密に協議し、ほぼ合意まで至ったと思ったタイミングで、誠品生活から「やはりここを変えたい」という連絡が。「協議の進め方が違ったり、現場スタッフだけでは考えが至らない部分へのこだわりがあったりすると気づきましたが、それをつかみ切れないまま、同じことの繰り返しで半年が過ぎていきました」

 開業までのタイムリミットは近づいていく。その間も、東京ミッドタウン日比谷で、書店の枠にとらわれない複合型店舗「HIBIYA CENTRAL MARKET」などの運営実績のある有隣堂を、店舗運営のパートナーとして誠品生活に紹介したり、誠品生活日本橋内に入る日本のブランドを紹介したり。開業に向けた枠組みに必要な契約がすべて整ったのは18年の初秋だった。

誠品生活の人たちに触れ、仕事観に変化が

 そんななかで、篠原さんの仕事観にも変化が。それまでは、関係者全員が納得していれば、自分のなかでは95点の仕事でも良しとすることがあった。「ところが、誠品生活の人たちは、最後の1点までこだわり抜きます。自分たちの哲学を追求するパワーに、台湾だけでなく世界中にファンを持つブランドの神髄を見ました

 篠原さんも、徐々にこだわりを追求するように。「誠品生活日本橋」には、日本初出店となる台湾料理店が出店しているが、実は最初に提案されていたのは別の店。「出張で行った店がおいしくて、『こちらにしたい』と提案し、最終的にはその案が通りました」

 9月27日にオープンしたが、篠原さんが「やり切った」と実感できたのは、それから1週間後、店舗を訪れた人たちを見たときだった。「不動産業界を目指したきっかけは、東京・千代田区の霞が関ビルディング40周年のニュースを見て、父が開業当時に展望台に上った思い出を話してくれたことでした。一緒に上った祖父が『こんなに復興した』と感慨深げだったと聞き、人の思い出に残る仕事をしたいと思ったんです。その目標に少し近づけたかな、と思います」