スマホアプリと無料のSIMカードを組み合わせたプラットフォームビジネスを展開する、WAmazing(ワメイジング)社長の加藤史子さん。「個人の訪日旅行者の『手の中の旅行エージェント』になり、観光先を元気にしたい」と語る、彼女のストーリーを紹介します。

加藤史子さん WAmazing社長兼CEO
1976年生まれ。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、98年にリクルートに入社。「じゃらんnet」や「ホットペッパーグルメ」など、主にネットの新規事業開発を担当。その後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」で、フリーミアムのビジネスモデルで、若者をスキー場につなげる「雪マジ!19」を立ち上げた。2016年7月にWAmazingを創業。

目指すのは「手の中の旅行エージェント」

 訪日外国人観光客数が増加の一途をたどっていた2016年7月、加藤史子さんはこれらの外国人観光客をターゲットに、スマホアプリと無料のSIMカードを組み合わせたプラットフォームビジネスを展開する、WAmazing(ワメイジング)を創業した。

 目指しているのは、スマホ一つで宿泊、交通、飲食、買い物、娯楽のすべてを手配できる「手の中の旅行エージェント」。観光客は事前にアプリをダウンロードし、旅程やカード情報を登録すると、日本の空港内の専用機で一定量の無料SIMカードが手に入る。アプリで宿泊予約や決済ができ、手数料とデータ通信の追加料金が同社の主な収益源だ。

 社会の注目度も高く、資本金約10億円を集め、さらに10億円超の資金調達を見込むという。そんな辣腕(らつわん)ぶりを発揮する加藤さんを駆り立てたのは、日本の観光産業や地方に対する危機感だった。

 個人旅行が増えるなか、団体客を主な顧客とする既存の国内観光産業のやり方では、地域の観光資源と個人旅行者は出合いにくい。一方、外資の宿泊予約サイトが台頭するなど、「押され気味な日本の観光事業者と、訪日する個人客とを結びつける仕組みをつくることで、地域での需要を生み出せ、社会貢献できると考えました」

地方の観光産業が海外の人と直接つながる仕組みをどんどんつくっていきます
地方の観光産業が海外の人と直接つながる仕組みをどんどんつくっていきます

契機は「出産」「育児」

 加藤さんが仕事について考える契機となったのが、出産・育児だった。それまでに、リクルートで「じゃらんnet」などの事業を立ち上げ、会社の利益に大きく貢献していた加藤さんは、31歳と34歳で出産。「企業の利益ばかりを追い求める仕事では、子供を預けてまで働くモチベーションを保てず、地域や社会も恩恵を受ける仕事がしたいと考えるようになりました」

 32歳で異動したじゃらんリサーチセンターで手がけたのが、「雪マジ!19」。19歳にリフト券を無料配布することで、衰退するスキーリゾートに若者を呼び込むキャンペーンだ。全国180以上のゲレンデで採用され、現在は同様のスキームをゴルフ場や温泉などでも展開。「持続可能な仕組みをつくって社会貢献できたことが、大きな自信になりました」と言う。地方の観光産業が訪日客にアピールできていない実情を知り、「誰もやらないなら私が」と起業を決めた。

 創業から2年の時点で、国内20空港にSIM受け取り専用機を設置。アプリのダウンロード数は20万件に上る。香港、台湾の訪日客向けにスタートし、2018年9月には中国本土に、10月にはASEAN6カ国に拡大。アプリも中国語に加えて、英語対応にした。「訪日外国人が、日本中の観光資源を楽しみ尽くせるようにしたいですね」