「今月のドアメン」第2回では、小田急電鉄の生活創造事業本部 開発推進部にて下北沢エリアの再開発事業に取り組む向井隆昭(むかいたかあき)さんにフォーカス。ビッグプロジェクトのコアメンバーとしての仕事と味わった挫折、記事後半では交際中の彼女と婚約に至るまでを語ってくれました。

「シモキタらしさ」を生かす、古くて新しい街づくり

 「社会課題の解決につながる都市開発を事業としてやりたい」という夢を持ち、新卒で小田急電鉄に入社した向井隆昭さん。不動産開発部門でキャリアを磨き、3年目を迎えた25歳のとき、小田急線沿線・下北沢エリアの再開発プロジェクトに本格的に関わることになりました。

日経doors編集部(以下、――) 都市開発とは、スケールが大きい事業ですね。具体的にはどんな仕事を担当されているんですか?

向井隆昭さん(以下、向井) 2013年より、小田急電鉄では下北沢駅を中心に地下化された線路跡地の開発を進めており、世田谷代田駅、下北沢駅、東北沢駅間の約1.7キロメートルにおよぶこの地域の再開発プロジェクトがスタートしました。この中で、私は全体のプロジェクトマネジメントと各施設の企画、リーシングを担当しています。このエリアを「下北線路街」と銘打ち、エリア内に新しい建物を13棟建設する予定です。既に半分ほどオープンし、現在は残り6棟のオープンに向け大詰めを迎えた段階です。

―― 「シモキタ」と呼ばれる下北沢は小田急沿線を代表する街ですね。演劇、音楽、古着など文化的で個人商店が多いイメージがあります。それらがすべて近代的に変わるのでしょうか?

向井 今回の再開発にあたり、私たちが一番大切にしているのは「シモキタ」らしさ。都市開発というと「変える」ことを想像する人が多いのですが、下北沢の歴史や街の人を知れば知るほど、この街が持つ魅力を生かしながら開発を進めていきたいと強く思いました。

 すべてをガラリと変えるのではなく、下北沢はじめこのエリアの良い所をもっと引き出す街づくり、地域の方の活動やチャレンジを応援できるような支援型のプロジェクトを目標にしています。再開発のコンセプトである「BE YOU.」には、住む人にも訪れる人にとっても自分らしく過ごせる街にしたいという思いを込めました。

「人と人の距離が近く、下町のような温かい人情味とディープなカルチャーが融合したシモキタの良さを、未来にも引き継ぎたい」
「人と人の距離が近く、下町のような温かい人情味とディープなカルチャーが融合したシモキタの良さを、未来にも引き継ぎたい」

―― 「下北線路街」には商業ビルの他に、屋外レンタルスペースやコミニュティーハブ、長屋など他の街にはないユニークな施設がたくさんありますね。

向井 「シモキタらしさ」「支援型開発」の観点で考えたとき、どこの街にもあるような物販と飲食店が中心の商業施設ばかり建てるのは違うと思ったんです。地元の方に必要とされる施設も充実させ、これからの社会を想像しながら企画を進めてきました。例えば、地元の方々のコミュニティー形成の場、育児をサポートする保育園、クリエーターさんや個人が出店できる「職・住・遊」近接の長屋の商店街、新たな教育的価値をもたらす学生寮など。私が大好きな銭湯から着想を得た、地元と遠方の方の両者が利用できる温泉旅館のオープンも進めています。

 芝生やカフェを常設した「下北線路街 空き地」は、地元の皆さんの声を参考にオープンしたレンタルスペース。これからも地元の方にさまざまな活動やイベントで利用してもらえるよう、仕掛けていきます。

―― 次々と開発が進み、地元の方の反応はいかがでしたか?

向井 特に「下北線路街 空き地」や保育施設の充実については、ファミリー層から「遊ぶ場所があってうれしい」「とても便利になった」とよろこびの声をいただきました。一方で、一部の施設の建設にあたり、騒音などを不安に思っている方もいらっしゃいます。住民の皆さんのご意見を大切にしながら、不安要素への対策をしっかり講じ、理解が得られるよう努めています。