上司の一言で崩れ去ったプライド

―― 今回のビッグプロジェクトに参画される前と後では、ご自身に変化はありましたか?

向井 プロジェクトに入った当初、実は半分程度は違う計画を考えていたんです。都市開発に対して、真剣に、そして泥臭く向き合えていなかった。単純におしゃれなテナントを集めたり、デザイン性の高い施設を建てたりすることばかり考えていました。ところが、上司から「開発に対するお前のアプローチの仕方は違う」とはっきり言われ、頭をガツンと殴られたようなショックを受けたんです。そこから、仕事への考え方、取り組み方が変わりました

―― 入社以来、ずっと不動産開発に携わってきた中で、挫折を味わったんですね。

向井 今、振り返ると、1年目から希望の不動産開発部門に配属されたこともあって、自分でも知らないうちに慢心していたのかもしれません。プライドばかり高くなっていた気がします。

 それまで私は、都市開発を表面的にしか捉えていなかった。建物、施設などハード面を良くすること、オシャレなお店を誘致すること、短期的に収益を上げることを一番に考えていました。でも、上司とじっくり対話したとき、この仕事の本質に気づかされました。特に、鉄道会社が取り組むべき都市開発とは、単なる開発ではなく「まちづくり」そのものであること。リアルな場の価値を再定義し、そこに住む人、集う人の未来をつくる仕事であり、これからの「生き方」を考える仕事なんだ、と。

「ロジックやプロセスも大事だけれど、それは街への思いや責任感があってこそだと気づきました」
「ロジックやプロセスも大事だけれど、それは街への思いや責任感があってこそだと気づきました」

―― 仕事への向き合い方が変わったことが、「BE YOU.」のコンセプトやユニークな施設の建設につながったんですね。

向井 自分の開発へのスタンスが甘かったことを反省し、とにかく下北沢の街や人を「知る」「体感する」ステップから始めました。そして「今がよければいい」という考え方から、「未来はどうあるべきか」「10年後、20年後、次の世代に何を残したいか」を軸に考えるようになったんです。成長のきっかけをつくってくれた上司にすごく感謝していますし、尊敬しています。

―― 「下北線路街」がすべてオープンした後、向井さんはどう関わっていくのでしょうか?

向井 不動産や都市開発の仕事は、すぐに結果が出るわけではありません。少なくとも数十年やっていかないと本当の成果は見えないと思いますし、定性的な面も含めると正解がありません。だからこそ、今後は自分の手掛けた施設の運営に取り組んでみたい。運営では一施設にとどまらず「街を運営する」くらいの意識で取り組み、人々の生活や街の魅力の向上を図りたい。

 以前は「開発だけやりたい」と思っていたんですけど、今はもっともっと「まちづくり」に入り込んでいきたい気持ちが強くなりました。こうした経験をステップにして、再び異なるエリアで開発を通じた「まちづくり」に貢献していきたいと思います。