漫画に溺れて寝落ちするぜいたく
続いて訪れたカプセルホテルは、本の街、神保町にある「MANGA ART HOTEL, TOKYO」です。今年2月にオープンしたばかりのこぢんまりとしたカプセルホテル。レセプションテーブルやドアに表示されている「漫泊」のロゴが物語るように、一晩中漫画を読みながら泊まることができる、漫画好きにはたまらない空間です。
用意された漫画は約5000冊(うち1000冊が英語)。筆者が訪れたとき、大柄な外国人男性数人と5階(レセプションがある。男性専用フロアです)ですれ違いました。漫画大国、ニッポンでこんな施設に滞在したいと望む外国人は多いでしょう。
女性フロアの4階には16室あります。男性フロアは19室あり、稼働率はほぼ100%という人気ぶり。宿泊者は20~30代が中心だそうです。
4月のオンシーズンに筆者も泊まってみました! 桜の季節なので通常よりやや高めの1泊5500円(税込み)。これでもリーズナブルですが、その翌週はホテル予約サイトで3150円(同)だったので、オフシーズンを狙えばおトクなステイができそう。
簡易宿泊所に初めて泊まるので不安だった筆者。でも杞憂(きゆう)でした。男女別だし、セキュリティーがばっちりなので、安心して過ごせました。閉所恐怖症でもあるので心配していたのですが、漫画があったおかげか、意外と気にならず。
漫画マニアというほどでもないのですが、ビニールカバーのされたおしゃれでカラフルな表紙のラインアップを前にテンションがいつしか上がり、お薦めを聞いて、5冊まとめて枕元に。もちろん読み切りました。
宿泊者のほとんどが「漫画を読むために」滞在しているということもあり、大きな話し声は禁止。夜0時まではジャズ系の音楽が静かに流れていましたが、その後は無音に。想像以上に静かで、漫画に没頭できました(読まずに眠りたい人もしっかり眠れます)。
イメージとしては、ビジネスクラスの機内席に近いでしょうか。違うのはカーテンの向こうには漫画が大量にある、という点。
「デジタル時代の今こそ、アナログな漫画を手に取って読むという行為に意味があるのです。マインドフルネスみたいな体験に近いとも言える。1階も2階も天井は低く、秘密基地みたいな感じ。押し入れで漫画を読む感覚を呼び起こしたい」(ホテルを運営するdot共同代表取締役の御子柴雅慶さん)
最長で2週間滞在したゲストもいたそう。筆者は1泊だけでしたが、チェックアウトして数日たってから無性に「漫泊」体験が恋しくなりました。
漫画の世界にどっぷりハマったことで、思考の広がりが、いつもとちょっと違う感じ。脳に余白ができた感覚が心地よかったのも、「漫泊」効果でしょうか。御子柴さんは「ビジネスパーソンこそ漫画を読んでほしい。学べることは多いし、自分以外の人生を体験させてくれるから」と言います。確かにこんな空間で非日常を味わうと、仕事への活力も湧いてきます。
日中は神保町で古本屋巡りをして、夜はここで漫画ずくめ、なんてよさそうです。次は3泊ぐらいしてもいいかな。
取材・文・写真(ファーストキャビン 東京ドームシティ)/大崎百紀 写真(MANGA ART HOTEL, TOKYO)/花井智子