日本の伝統アートに心を寄せられる空間
デジタルアートとは一転、身近な伝統アート・日本画の美を感じたいなら、東京・広尾の「山種美術館」はいかがでしょう。
こちらは、山種証券の創立者・山﨑種二の個人的なコレクションを基にオープンした美術館。1966年に日本初の日本画専門の美術館として日本橋兜町に開館し、現在の渋谷区広尾に2009年に移転しました。
「日本画の素晴らしさを幅広く、多くの人に発信していきたい」という創立者の理念を継承し、ユニークな展覧会を開催するほか、「もう一つの美術館」といわれるショップもカフェも充実しています。ショップでは、作品をデザインに取り入れた文房具や雑貨が展覧会ごとに美しく並んでいました。
1階のロビーにあるカフェ「Cafe 椿」は、陽光差し込む明るい空間。取材時には開館と同時に、若い女性がお店に入り、お茶と和菓子を楽しみながら寛いでいました。駒沢通りに面した大きなガラス窓の外にはテイカカズラの緑と花が美しく、通り行く人を見ながらのんびりとティータイムもよさそうです。
テーブルや椅子などの家具は、イタリアのカッシーナ・イクスシー社に特注したもので、木の温かみを感じられる空間に仕上がっています。「自然の素材を使って描く」日本画の作品を引き立てるようなしつらえが特徴です。
広尾移転時から展示作品をモチーフにしたオリジナル和菓子をこのカフェで提供、人気メニューとなっているそうです。山種美術館が兜町にあったころから長年の付き合いがある老舗和菓子店「菊家」(東京都港区)が作るオリジナル和菓子は美術館のカフェらしい、もう一つの芸術品。それぞれに美しい風情ある名前が付いた和菓子は、食べるのがもったいないくらい。これを楽しみに来館するお客も多いそう。
会場内の作品キャプションには「和菓子になりました」というマークが付けられており、作品の鑑賞後にその和菓子をいただくと、もう一度作品を「味わう」ことができます。
逆に、先にカフェで(和菓子に変身した)「作品」を味わってから、階下に降りて、展示作品を見て、目で味わうという方法もあります。筆者は、作品を見てから和菓子を味わう方が得した(!?)気がするように思いましたが、どうでしょうか。
6月8日からは広尾での開館10周年を記念して「生誕125年記念 速水御舟」展を開催(~8月4日まで)。質・量ともに国内外屈指とされる山種美術館の速水御舟(はやみぎょしゅう)コレクション全120点が前期・後期で全点公開される貴重な機会です。燃える炎の揺らぎを描いた情熱的な作品『炎舞』(重要文化財)を見たら、日本画に詳しくない人でも、心引かれることでしょう。
これまでもことあるごとに、人々を魅了してきた早世の日本画家・速水御舟。その画業を俯瞰(ふかん)できる展覧会をぜひお見逃しなく。
「Cafe 椿」も、御舟の作品の一つ「名樹散椿」(重要文化財)から名付けられています。
和菓子のほか、人気メニューは「コーヒーとスイーツのセット」(税込1200円)。これは、東京都内ではここでしかいただけないという京都の「スマート珈琲店」のコーヒーと、甘さ控えめのチーズケーキ(雪うさぎ)のセットで、絶品です。
美術館によれば、前回展示会「花・Flower・華―四季を彩る―」(終了)では、明治時代の人物が多く登場する人気アプリゲーム「明治東京恋伽~ハヰカラデヱト~」とコラボ。山種美術館が所蔵する、横山大観や菱田春草という著名日本画家の絵をイメージした和菓子の特別メニューを用意しました。ゲームのファンは主に女性で「初めて美術館に来た」とSNSなどで報告していたそうです。いずれこうしたコラボ企画の第2弾があるかも?
また、山種美術館と、ここからほど近い「国学院大学博物館」、そして南青山にある「根津美術館」の3カ所をトライアングルのように巡る女性もいるとか。
これからの季節、さまざまな趣向をこらすミュージアムカフェを巡って、作品鑑賞と一緒に知識を増やせる機会を楽しんでみませんか。
取材・文/大崎百紀 写真/鈴木愛子(EN TEA HOUSE幻花亭)、花井智子(Cafe 椿、展示室以外)
東京都江東区青海1-3-8 お台場パレットタウン
森ビルデジタルアートミュージアム:エプソン チームラボボーダレス→★
営業時間 11時~19時(平日)11時~21時(土日祝)。ラストオーダーは閉館の30分前
※時期により異なるためHPをご確認ください
Cafe 椿
東京都渋谷区広尾3-12-36 山種美術館1階
山種美術館→★
休業日 美術館休館日(毎週月曜日。月曜が祝日の場合は開館、翌日火曜日は休館。展示替え期間、年末年始)