キリーロバ・ナージャさんはソ連レニングラード(当時)に生まれた後、両親とともに、ロシア、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、日本と世界6カ国で成長期を過ごしました。その後、電通に入社、コピーライターとして活躍し、2015年には世界コピーライターランキングで1位に。世界6カ国でそれぞれの学校教育を受けたナージャさんに日本で働くことや外国語の学習術、グローバルスキルについて語ってもらいました。

ふつうって何?

 「ふつう」と「個性」。子どもの頃はみんななんとなく「ふつう」がいいと思って、周りと同じモノを持ったり、同じ遊びをしたりしますよね。でも大人になると、企画会議とかで「ふつう」って言われるとむしろショックで、どこか個性を求められたりしませんか。子どもの頃、「ふつう」を追いかけるより、自分らしさをもっと伸ばしたらよかったのに……誰か、先に教えてくださいよ!って。

 私も、そうだったんですよ。でも、あることに気づいたんです。絶対的な「ふつう」は存在しないってことに。

 7歳になるまでは、ずっとロシアの「ふつう」の女の子でした。ある日突然、海外に行くことになったんです。そこでいつものように学校に行ったのですが、それまでの「ふつう」は、「ふつう」ではなくなっていたのです。話を分かりやすくするために、仮に日本の小学校に通っていたとしたらこのような疑問を抱えていたと思います。

 え?ふつうは、親と一緒に登校するんじゃないの?

 え?はやりの星柄のジャージを着るのがふつうじゃないの?

 え?ランドセル?ふつうリュックじゃないの?

 え?ふつう、学校で朝ごはんが出るよね?

 え?筆記用具はふつう、青いペンじゃないの?

 え?給食は、ふつう自分たちで配らないよね?

 え?ふつう、子どもは教室掃除しないよね?

 え?雑巾って、ふつうボロボロの布切れじゃないの?

 え?運動会は、ふつう全員出ないよね?

 みんなにとって「ふつう」なことは、私にとってはどれも不思議に見えたのです。その後も、違う国の小学校に転校するたびに、そこならではの新しい「ふつう」に出合い続けました。この頃、私も「ふつう」がいいという思いがあったので、毎回必死に周りを観察やマネをして、新しい「ふつう」をマスターし続けていました

8歳の頃のナージャさん。イギリス・ロンドンの広場にて
8歳の頃のナージャさん。イギリス・ロンドンの広場にて