異分子は差別化できる

 チャンス!? と思った方もいるかもしれないので、少し解説をしますと、例えば、「みんな同じ」なんだとすれば、「異分子」であることは、それだけで差別化になりますよね。「つまらない」「カチコチ」なところに新しい考え方や刺激を与えることもできますし、微力ながらパーセプション(認識)を変えるキッカケもつくれるかもしれない。「みんなが同じ」である環境の中で「異分子」としてサバイブをするにはいろんな苦労があります。でも、それだけ希少価値の高い存在になり得るのではと思ったのです。これって、すごくいい環境だと思いませんか?

 「みんなが違うから面白い」。米国などの海外では逆になかなかなれないポジションとも言えるかもしれませんよね。既にいろんな「異分子」の集まりになっていますから、one of themにしかなれないんです。居心地のいい環境にはなるかもしれませんが、その分、自分にしかできない活躍の仕方が少し分かりづらくなってしまうとも言えます。

 そういう人たちの話を聞くうちに、多くの人が「変わらなきゃ!」と思っている日本こそが、今「異分子」を必要としているのではと気づいたんです。そして、本当に自分らしい成長を遂げるために、「異分子」の私も日本を必要としていたのだと思います。苦労するとビクビクしながらも、居心地がよさそうな外資系の企業より日本企業で働くことにしました。

 日本企業への就活は、やはり大変でした(笑)。「エントリーシートは、自分で書いたんですか?」と聞かれたり、英語で頑張って話しかけようとした面接官もいたりしました。その反応で、企業の「異分子」に対するスタンスがリトマス紙のように分かるんです。だから「異分子」を面白がれる企業に最後は行き着くんですよね。これも、とても面白い発見でした。

アジャストが必要だった

 「異分子」を面白がることができるとはいえ、やはりビクビクしていた予感は当たり、最初はたくさんの苦労がありました(笑)(今思うと、異分子というより、新人としての苦労のほうが圧倒的に多かったのですが)。同じ「異分子」でも、今までの人生は、いろいろな環境でただサバイブすればよかったのが、これからは、周りに貢献しなければいけない立場になりましたから、アジャストが必要だったんです。

 「異分子」によって本当に十人十色のアジャストの苦労があると思いますが、私にとって、なんといっても、日本語のコピーライターという職種は、ある意味最もチャレンジングなもので……(笑)。その場所の「同分子」の深い理解が求められますし、初めて担当するクライアントもまさか私が日本語のコピーの提案をしにきたとは思いませんよね(笑)。チームからもどうすれば受け入れられて信頼してもらえるのか、貢献できるのかといろいろな試行錯誤が続きました。ここでも、この連載の他の回で書いたように、「ふつうを極める」ことや「苦手を克服しない」考え方からブレークスルーが生まれます。

 そこから、自分にできることがだんだんはっきりと見えてきました。コピーライティングやクリエーティブの領域では、違う角度からの着眼点や一つの常識に縛られない発想、誰もがまだ開拓していない領域への挑戦などを通し多くの既存のカタチにとらわれない仕事に挑戦するチャンスに恵まれました。いつしか、変わった仕事があるけどどうしよう……という人から、あ! そういえばそういうのがバランスよく分かる「異分子」がいた! とお願いされることが増えていきましたね(笑)。