「主婦」イメージの変遷

 私と同世代の女性たちには、結婚後、いったん家庭に入ったら二度と職場に出ないつもりだった人が多かったでしょう。しかし、夫の給料は思ったほど上がらなかったため、仕方なくパートやアルバイトに出なくてはいけなくなりました。再び社会に出てみると、「こんなはずじゃなかった」という、つらい現実が待ち受けていました。

 さらに次の世代の女性たちの多くは、結婚後、会社を辞めてもすぐにまた仕事が見つかるだろうと甘く見ていました。仕事を辞めたのが、求人が山のようにあったバブル期だったからです。

 子どもたちはそんな母親たちの姿を見て、「いったん仕事を辞めたら、こんな不利な目に遭う」ということを学びました。橘玲(たちばな・あきら)さんが書かれた『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス、2017年)の本などが登場し、仕事を辞めることが女性にとってどんなに不利かが情報としても伝えられるようになりました。それでも、「自分はシングルインカムでもやっていけるほどの高収入の夫を捕まえられる」という根拠のない確信を持つ一部の女性たちは納得できないようですが。

 1980~90年代ぐらいの女性誌にも問題がありました。妻の仕事のモデルとして紹介されたのは、フラワーアレンジメントや人形作りなどの趣味的ホームビジネスでした。料理好きが高じて料理研究家として成功した既婚女性たちが憧れの的になりました。この背景にあったのが、昭和型の夫婦像です。

 もう1つ、階層問題という視点もあります。私たちの世代は「主婦」と聞いて何を連想すると思いますか? 「ぬか味噌臭い」という言葉です。主婦には「台所の床をはい回っている人」というイメージがあったんです。

 これが80~90年代には、「午後にラケットを持ってテニスサークルに通う女性たち」に変わりました。こうした「階層」の分化が明確になり、夫のシングルインカムで暮らせるのは富裕層だけだということが分かって、女性誌はそれをあおったんです。「結婚」とは女性にとって、階層上昇の唯一のチャンスだ、と。