現在、専業主婦は二極分解している

 ここで、(社会学者の)江原(由美子)さんが1990年代末に行った調査を紹介しましょう。

出典:江原由美子1999「男子校高校生の性差意識」『教育学年報』7(『新編日本のフェミニズム』8「ジェンダーと教育」収録)

 共学・別学の高校に通う男女の生徒を対象にした調査です。この生徒たちの中で、最も保守的な「性別役割分業感」を持つのは、別学(男子校)に通う男子であることが分かりました。家事や育児に対する考え方も、別学の男子が最も保守的で、「男は仕事女は家庭」という考えに「賛成」と「どちらかといえば賛成」を合わせて79.5%に達しています。ちなみに東大に進学する子どもの多くは、この層と重なります。

 一方で、別学に通う女子は働く気満々です。別学女子の出身家庭は、専業主婦率が最も高い、つまり、出身家庭の経済階層は高いが、この母親と娘のロールモデルが正反対、つまり娘は「母のようにはならない」と考えていますし、母親のほうでも娘には「自分のような人生を送ってほしくない」と思っているのでしょう。

 このデータからおよそ20年たちましたが、変化は起きているでしょうか。別学女子校のキャリア教育はますます熱心になりましたが、別学男子校の生徒たちの性差意識は相変わらず保守的なままのような気がします。つまりギャップが拡大しているのですね。追跡調査をしてほしいものですが。

 かつての日本は専業主婦世帯が多数派でしたが、今では完全に共働き世帯が多数派になっています。理由は夫の年収の低下です。そして、男性の経済力と結婚確率は比例しています。社会学には、「ダグラス・有沢の法則」というものがあります。夫の学歴が高くなるほど、妻の無業率が上がる、という経験則です。80年代ではこの法則が実証され、「専業主婦」は夫の経済階層が高いがゆえのステータスシンボルとなりました。だから女性の多くが主婦に憧れたのです。ところが次第に、すべての経済階層における妻の有業率が上がっていき、今、専業主婦は二極分化し、貧困層と富裕層に多く分布しています。

 しかし、夫婦が共働きでも、妻側が就労を抑制する傾向があります。私の周囲には、弁護士同士や医者同士のカップルに代表される高学歴同士のパワーカップルがいますが、出産や育児を通じて、妻のほうが就労を抑制しています。弁護士も医師も仕事に復帰しやすい職種ですが、女性は復帰する際、正規ではなく非常勤や非正規になる傾向があります。

 日弁連(日本弁護士連合会)が出した、『弁護士白書』(2008年)に「特集 男女共同参画と弁護士」があります。これを見ると、30代半ばの女性弁護士の年収は男性弁護士の半分程度でした。この理由は複数考えられます。まず、女性弁護士の元には家事調停などの少額案件が多く集まり、男性弁護士の元には法人依頼の高額案件が集まります。また、弁護士事務所を自分で経営するかどうかも関係してきます。男性弁護士には経営者が多いです。

 同様に、医師にも男女格差が生じます。女性の医師は出産後に夜勤のない保健所の医師や非正規の仕事をする場合が増えます。