「正規」「非正規」の区分は、もはや「身分」である

 ちなみにこの「正規」「非正規」という区分は、もはや「身分」であるというのが、私たち研究者の間におけるコンセンサスです。なぜなら「正規」と「非正規」の賃金格差には、いかなる経済合理的な理由もないからです。なぜこの差が生まれるかを説明しようとすれば、「身分」という「外生変数(※)」でしか説明がつかないというのが、私たちの業界の常識です。

※外生変数とはマクロ経済用語。分析のモデルの外で発生する変数。なぜその値を取るのかをモデルでは問いようがない変数。

 経済合理性がないという意味では、「女性」「男性」という性別も「身分」だといってもいいかもしれません。今はもうないと思いますが、私たちの時代には、アルバイトに男女で賃金格差がありました。例えばコンビニのアルバイトですら、賃金に男女で差があったのです。「なぜアルバイトで、男女の賃金差があるのですか」と女性が聞けば「女性だから」と返される。これは「身分」だとしか言いようがありません。

 職場において、新しいカテゴリーをつくって男女差別を固定化したのが「正規」「非正規」です。女性というカテゴリーで差別すると性差別だと批判されるため、代わりに「正規」「非正規」という雇用形態を設け、新たな差別を作ったわけです。

 男女雇用機会均等法ができたときには「総合職」と「一般職」ができました。あのときも、性別を総合職と一般職に置き換えたことで、それまで闘ってきた女性の法廷闘争の成果が全部無効になりました。例えば差別定年制や30歳定年制、結婚退職制など今から思えば信じられないような差別に対して裁判で違法を勝ち取ってきたのに、契約社員や派遣社員だと契約更新10年期限とか契約期間満了などで、性差別を問われずに実質的に女性を職場から排除することができるようになりました。

 このようにルールを変えるという点では、経営者は非常に狡猾です。それに対して労働組合側は抵抗できませんでした。女性は男性社員と闘っていたのではなくて、経営者と闘っていたのです。しかし、男性主導の労働組合も共犯者だったともいえます。労働組合がこれだけ弱体化しているので、あとは経営者がやりっぱなし。私たちはやられっぱなしです。

構成/小田舞子(日経xwoman) 看板撮影/徳永 彩(KiKi inc.) イメージ写真/鈴木愛子