社会学者の上野千鶴子さんは、日本人の働き方、幸せになる働き方について、立命館アジア太平洋大学学長・出口治明さんと語り合った『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』(祥伝社)を出版しました。上野さんに「ジェンダーギャップ解消のために必要なこと」について伺います。
日本企業はもはや経済合理性では動いていない
今、女性活躍の重要性を腹落ちしている経営者がいるとすれば、その理由は、女性を登用すれば業績が上がるという経済合理性のためです。出口さんとの対談で完全に意見が一致したのは、さまざまなデータを見れば、女性を登用すれば企業の業績が上がるということ。つまり、女性を登用することが経済合理性にかなっていることが研究により実証されている、という点でした。
それなのに変わろうとする企業がこれほど少ない。日本の企業はもはや経済合理性では動いていないのではないか、という見方で出口さんとも一致しました。
もし経済合理性で動いていないとすれば、日本企業が変わらない理由は一体何でしょうか? これまで男性中心に作ってきた「ホモソーシャル(※)」な組織文化を変えたくないからだとしか、私には思えません。
さらにいうと、悲しいことに「オッサン」という粘土層(古い考え方で凝り固まっていて、なかなか変化することができない男性管理職)は社内で着実に再生産されています。私たち団塊世代の男性は、下の世代から蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われて、「こいつらがいなくなれば、会社もずいぶん風通しが良くなるだろう」と思われていました。その後、その世代が定年などで会社からすっかりいなくなりました。それでも組織の体質は変わっていません。
組織は人が担うものです。私たちより一世代若い、現在40~50代の管理職男性たちもしっかりオッサンとして再生産されてしまっていたのでしょう。
この先、企業間競争が起き、その結果、勝ち組と負け組が分かれていけば、男女格差を残す企業は淘汰されるでしょう。しかし、日本の巨大ブランド企業のほとんどは、「オッサン企業」です。女性を積極的に登用する小規模の企業がどんなに頑張っても、巨大なオッサン企業に簡単には勝てそうにありません。
しかしグローバル市場は国境で閉じていません。企業間競争は国内ではなく世界規模で起きます。そうしたら同質性の高い日本企業は多様性を取り込んだ海外企業に負けるでしょう。こうして「巨艦日本丸」が沈没するだろう、という点でも、私と出口さんで意見が一致しました。