社会学者の上野千鶴子さんは、日本人の働き方、幸せになる働き方について、立命館アジア太平洋大学学長・出口治明さんと語り合った『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』(祥伝社)を出版しました。上野さんに「フェミニズムとの出会いは、母・祖母・曽祖母との対話にある」ということについて伺います。

「女だ、男だ」にとらわれていないことを示したい女たち

 今の30~40代の女性たちを見ていると、「女だから」「男だから」という考え方をあえて避けてきた人が多いように感じます。ジェンダーの問題から努めて距離を置いてきた人たちです。

 「性差なんてこれまで意識したことがなかったけれど、会社に入って初めて日本社会の男女差別に気づいた」と言う女性は少なくないと感じます。でも、そう語る女性たちは、実は、自分の両親の姿を見て、とうの昔に「真実」に気づいていたはずです。それを直視したくない自分がいた。だから意図的にフェミニズムから距離を置いてきたのです。

 自分が「女だ、男だ」ということにとらわれていないことを示したい。見たくない現実をわざと見ないようにする傾向は、高学歴で能力の高い女性ほど強いです。これまで私は「女だ、男だというこだわりを気にせず生きています」「生まれてから一度も性差別を経験したことがありません」と言う女性をたくさん見てきましたが、そういう人でも、両親の夫婦関係で男女平等が実践されている家庭で育った人をほとんど見たことがありません。彼女たちの生まれ育った家庭のど真ん中に、性差別が組み込まれているはずなのです。

 今、もしフェミニズムについてもっと知りたい、学びたい、という人がいたとしたら、本を読むより何より、自分の母親、祖母、曽祖母の「女の生きてきた歴史」をきちんとたどってほしいと思います。女性が生きてきた歴史は、日本では戦争中も含めて、3世代くらいで激変しています。

 その過程で「私が今日あるのは」「私はどうしてこうなっているのか」「なぜ自分が大学に行けるようになったのか」といったことをしみじみと感じるはずです。昔の日本では「女に学問は要らない」と言われ、兄弟の学費を稼ぐために働きに出るというのが娘たちの運命でした。何百年も前の話ではなく、祖母、曽祖母までさかのぼれば、そんな日常がすぐそこにありました。

 女性の現実を歴史に見るだけでなく、相手に直接聞きに行くのも手。ただし、母娘の間柄は話を聞きにくいというのも事実。祖母と孫という関係なら、結構話ができるはずです。祖母がぼけてしまう前に、聞けることは聞いておいたほうがいいかもしれませんよ(笑)。

「自分が『女だ、男だ』ということにとらわれていないことを示したい。見たくない現実をわざと見ないようにする傾向は、高学歴で能力の高い女性ほど強いです」(写真はイメージ)
「自分が『女だ、男だ』ということにとらわれていないことを示したい。見たくない現実をわざと見ないようにする傾向は、高学歴で能力の高い女性ほど強いです」(写真はイメージ)