昨日できなかったことが今日できるようになる喜び

 その社長は起業して会社を売却した経験を持ち 、新しい事業を立ち上げるというタイミングでした。私がその社長と初めて会ったときに、自分で作ったスライドショーのサービスを見せたところ、後日、連絡が来て入社しないかと声を掛けてもらえました。プログラミングを好きな人はいても、何か形にまとめるまでやる人はそこまで多くないので、そこを見込んでもらえたのかもしれません。

 そこからはその社長と2人で、法人向けのアクセス解析ツールの開発、販売、運営、メンテナンスに夢中になって取り組みました。入社後1~2年は窓のない部屋で、朝10時から夜10時までパソコンで作業する日々。後に移った別のオフィスには窓があって、「人には日光が必要だ」と実感しましたね(苦笑)。徹夜はあまりしなかったですし、心身ともに強いほうなので倒れはしませんでした。何より仕事が楽しくて仕方がなかった。

 その社長はプログラミング初心者だった私をエンジニアとして雇って、実地でプログラミングを身に付ける場を提供してくれました。昨日できなかったことが今日できるようになることが純粋にうれしかった。「3カ月後にこれをリリースできなければ会社が立ち行かなくなる」というリアルな緊張感もたまりませんでした。

 2社続けてベンチャーに勤務したことで、新しい出会いも劇的に増え始めました。出版社の仕事では50~70代の方と話すことが多かったのですが、20~30代にいきなり若返りましたね。

 しかも、個人でアプリを開発して、会社化して、上場させたり、売却したりしている人がたくさんいて。今思えば、あのときにアプリ開発者としてのロールモデルをたくさん目にしたことが、その後のキャリアにつながったのかもしれません。

 あと、結婚生活を始めたのが28歳。大学時代からお付き合いしていた相手です。結婚願望は別になかったのですが、2人でたまたま分譲マンションのモデルルームを見に行って「いいね」と。こんな流れで「じゃあ、結婚しますか」となりました。

東京都港区にあるZaimオフィスにて
東京都港区にあるZaimオフィスにて

取材・文/小田舞子(日経xwoman doors) 写真/窪徳健作

下編「Zaim閑歳孝子 一人で起業 記憶ないほど夢中で開発」では、次のストーリーを展開

■誰の判断も仰がず、自分が本当にいいと思うものを作ってみたい
■本業の合間に短期間でアプリ開発「当時の記憶がない」
■30代でジャンクフードにおさらば
■1年前からオンライン日記を開始