本当にサポートになるのか、葛藤もあった
ニューヨークで新型コロナウイルスが拡大する中、古賀さんの友人の医師たちは、感染のリスクを覚悟しながら、医療現場の最前線で戦っている。中には感染する人も、もちろんいた。
古賀さんは、普段1箱約5000円の高級イチゴの栽培と販売を行っている自分の会社に何ができるのか、ずっと考えていたという。イチゴは植物工場で現在も生産されているが、従業員の健康へのリスクを第一に考え、販売は休止していた。収穫したイチゴを、医療機関に無償で提供できないか――。そんなアイデアが思い浮かんだ。
「高級なイチゴを医療従事者に渡したところで、果たして何かのサポートになるのか、正直迷った。善意でも、ひっ迫する医療機関に連絡する行為やモノを渡す行為が、そもそも負担になるのではないか、とも。でも、まずは試しにと、医療従事者に提供をしてみたら、おいしいイチゴを食べることで、少しだけ心身の疲労が癒され、ほっと一息つくことができ、喜んでもらえることが分かった」
Oishii Farmのメーリングリストに登録している人を中心に、イチゴを届けてほしい医療従事者を募集したところ、多くの関係者から反応があり、これまで、ニューヨーク市内の病院10箇所以上に、数百万円分のイチゴを提供している。
古賀さんは自らイチゴを病院まで運び、人との接触を避けるため、病院の外で受け渡しを行う。届け先の電話から、怒号や心電図の音など、緊迫した医療現場の様子が漏れてくることもあり、いかに現場が大変な状況か、改めて感じることも多い。
「私の会社は大企業ではなく、ずっと支援を続けられる状況ではない。でも、最前線で命を守ってくれている人たちを少しでもサポートできるなら。今、自分にできることがあるのであれば、やっていく」
助け合いの輪を広げるのは、一人ひとりの行動
新型コロナウイルスが、医療現場に及ぼしている深刻な影響が連日伝えられる一方で、その状況を実感することは、まだ少ない。筆者含め、今、医療機関で何が起きているのか、本当の意味で、理解できていない人も多い。過酷な現場から、守られているともいえるだろう。
防護服やマスク等が不足する中、病床や機器が不足する中、最前線で戦っているのは医療従事者だ。人それぞれ、できることの範囲や環境は異なる。ただ、新型コロナウイルスとの戦いが長期化する中、一人ひとりが、自分に今何ができるのかを考えて、可能な範囲で行動することで、助け合いの輪が広がるのは確かだ。
取材・文/大倉瑶子