その部屋は、まるで大きな図書館のようだった。大きな棚に古びた本が並び、紅色の椅子があちこちに置かれ、壁には絵画もかかっている。ところどころに配置された小さなテーブルにはいくつかの燭台が置かれ、ロウソクの火が灯っていた。この部屋には電気がなく、明かりはその火だけだった。あの小さなバーの奥にこんな部屋があるなんてどういうことなのだろう。改めて気味が悪くなった。

 しかし、この胸の動悸は、恐怖だけによるものではなかった。ジェットコースターに乗っているときのような胸に風が通り抜ける緊張を感じつつも、なんだかまるでゴッド・ファーザーの世界みたいだ、なんて思ってしまう。渋いマフィアのボスがゆったりと座って強いブランデーを傾けるのがこのうえなく似合う部屋だ。しかしここには飲料メーカー新米広報の私だけがいる、しかも人違いで。

 何のための建物で、あのペンギンが何者なのかも分からないが、やはり不気味だし、とにかく逃げることを考えなければ。「あの、すみません、どなたかいらっしゃいませんか」勇気を出して声を掛けながら一通り部屋を見て回り、誰もいないことを確認した。もしかしたら次の部屋にも電気がないかもしれないと考えて燭台を一つだけ手に取り、少し惜しい気もしたけれど、部屋を出た。

 次は、黄色のドアを開けた。赤の部屋が美しかったので油断して、今度は一気に開けてしまって、すぐにそれを後悔した。暗い部屋。中に、体格の良いスーツ姿の男が椅子に座っており、手に持った布で磨いているそれは、明らかに銃だった。体中の血液が凍ったようになり、その場から動けなくなった。さっきマフィアのことを考えたのはあくまで自分なりの冗談だった。

 男は鋭い目でこちらを見たあと、急に笑顔になって、言った。