起業家・作家として活動する関口舞さんの日経doors初連載。主人公は日経doorsブランドムービーに登場する、飲料メーカー広報の新人・アーヤ。仕事で失敗した夜、雨宿り代わりにたまたま入ったバーで、思いがけず謎の組織の合言葉を口にしてしまい、別の人物に誤解されて隠し部屋に閉じ込められてしまった。(※日経doorsブランドムービーはこちらへ。連載の前回記事は、「第2話 ペンギン」へ)

 ……薄いカクテル? 合言葉? あの注文をすることと、さっきの「諸行無常」が何かの合図だったのだろうか? 先生? 私は意図せず合言葉とやらを言ってしまったために、別の人物と間違えられてしまったのだろうか?

 怖い。真っ暗で、何も見えない。しかしすぐに天井の明かりがつき、この部屋は、廊下のようなものであることが分かった。目の前に、赤、黄、緑、青、そして金色の、5つの異なる色のドアがある。とにかくさっきのペンギンに説明して、誤解を解いて、ここから出してもらわなければ。「すみません!」力を振り絞って大声で叫ぶも、声は廊下に響き渡るだけだった。閉じた棚を叩いてみるも、音すら響かない。かなり厚い素材でできているのかもしれない。どこかに電話をかけようと思わずスマホを手に取るも、電源は切れていて、今までの人生で一番、充電しておかなかったことを後悔した。

 なぜバーがこんな仕掛けになっているのだろうか? この建物はとても古いはずなのに、その廊下は明らかに新しい設備のようだった。とにかく不気味な場所だ。

 仕方がない、きっと誰かがどこかにいるはずだ、とにかく事情を説明してここから出してもらうしかない。さっき「先生」、と言っていたし、それなりに大切な人物だと誤解されているわけだから、いきなりひどい目に遭うということもないだろう。

 改めて、前を見る。5色のドア。金色はなんだかより不気味だから、とりあえず左の赤から順番に開けてみよう。ずっと廊下に立っているわけにもいかない。深呼吸して、今までに経験したことがないような動悸を感じながら、ドアを静かに開けた。