新型コロナウイルスの影響を大きく受けた外食産業。焼き鳥チェーン最大手の鳥貴族も被害を受けた企業の一つ。この4月には直営店全店の393店とフランチャイズ加盟店の246店の休業に踏み切り、売り上げがほぼゼロになった。苦渋の決断を下すことになった経営者の胸中にはどんな思いが去来したのか。そして、この未曽有の危機からどんな起死回生策を打ち出そうとしているのか。鳥貴族を率いる大倉忠司社長に率直な胸の内を語ってもらった。

前編 鳥貴族 大倉忠司社長 コロナで売り上げゼロからの再出発 ←今回はここ
後編 鳥貴族 大倉社長 どん底創業期があるから今立ち向かえる

存在を否定された状態 創業以来の危機

 1985年に創業し、バブル崩壊やリーマン・ショックなどさまざまな危機がありましたが、今回のコロナ禍はまったく別物です。外出自粛要請が出るということは初めてで、外食チェーンにとってはある意味、存在を否定されたような状態でした。

 コロナによる被害が大きくなる前、3月は従業員の手洗い徹底、消毒、マスク着用など、さまざまな工夫をしながら営業していましたが、4月2日には全直営店(393店)を臨時で休業することを発表しました。これにより4月の売上高はほぼゼロになる。苦渋の決断でしたが、我が社は居酒屋業界における影響が大きい。だからこそ企業の社会的責任を考えて、店を閉めることにしました。

鳥貴族の大倉忠司社長
鳥貴族の大倉忠司社長
1960年2月に大阪で町工場を営む両親の下に生まれる。高校生時代のビアガーデンでのアルバイトがきっかけで、飲食店経営を目指す。79年に調理師専門学校を卒業し、大手ホテルやイタリアンレストラン勤務を経験。82年に地元の焼鳥店に転職。85年に25歳で独立し、鳥貴族を創業する。86年に法人としての鳥貴族の前身であるイターナルサービス(永遠の奉仕)を設立。2003年に大阪・道頓堀に出店し人気に火がつく。16年に東証1部に上場

 この決断を下したときに真っ先に脳裏に浮かんだのは従業員のことです。休業を決定したということは、売り上げがゼロになること。従業員が不安に思うのは当然です。そこで、すぐに従業員宛てにメールでメッセージを送りました。「4月は休業を決定したけれど、給与は心配しなくていい。100%支給する」と。そして「今は店を閉めるのが正義だ。クラスターを発生させてはいけない」とも。