「自分はどう生きるか」が突き付けられる時代に

―― 働き方の面で起きた大きな転換はどこにあると感じていますか?

干場 私は古い人間なので違うと思う方もいるかもしれないですけど、常々言ってきたことがあります。それは、「会社とは、平凡な人間を非凡にする幸福なシステムである」ということと「ひとりで見る夢は夢にすぎないが、みんなで見る夢は現実だ」というものです。後者は、オノ・ヨーコさんの言葉のもじりですが。つまり、会社をやってきて、会社が社員に提供できることとして、能力を伸ばすことはもちろん、共同作業による価値もあると思ってきたのです。

 オンラインで仕事をすると確かに効率的ですけど、顔を合わせて一緒にいることで、セレンディピティから生まれる新しい企画がやっぱりある。それがなくなるのはつまらないなと思うんです。ディスカヴァー・トゥエンティワンは規模的に100人弱ですし、家族のような感覚がありました。それがもし失われたとき、仕事ってどうなっていくんだろう、会社ってどういうものになっていくのかな、と思うところもあります。

30代の働く女性との懇親会を定期的に開催している干場さん。「安定した企業に勤めていても、コロナで不安を感じている人の多さに改めて驚いた」という
30代の働く女性との懇親会を定期的に開催している干場さん。「安定した企業に勤めていても、コロナで不安を感じている人の多さに改めて驚いた」という

山口 いずれにせよ、今までの「当たり前」がなくなっていくでしょうね。よくニューノーマルといわれていますけど、僕は「ノーノーマル」、つまり「当たり前がない世界」になるだろうと思っています。例えば、僕は組織コンサルを長くやってきたんですけど、経営はオプションの組み合わせです。社員の給料を一律にするというオプションもあれば、差をつけるというオプションもある。社員は増やすのか少数精鋭にするかとか、さまざまな選択肢があるわけです。今、起きているのは、かつてオプションじゃなかったものがオプションになっているということです。例えば今までは社員が毎日会社に来るのが当たり前だったわけですけれど、今は「社員に週何日出勤させるか」というオプションが生まれています。そして、就活生にそれを説明すると、「それはなぜですか?」と聞かれる。その会社が従業員にどういう人生を歩いてほしいと思っているのかが、問われる時代になったわけです。

―― 会社だけでなく、働く人にも選択肢が増えているのでしょうか?

山口 そうですね。働く会社を選ぶ側も、毎日会社に行くか行かないかを選べる。今までは、東京の会社で働きたいなら、地元を出て東京に行くしかありませんでした。でも、出社しなくていい会社なら、東京の会社で働くけど住むのは北海道の中央に位置する美瑛という選択もできる。自分がどこで、どういう生き方をしたいか、自分で考えて決めなければいけない時代になりました。