自分に「できない」という呪いをかけている

山口 僕も、20代の芸大卒の女性に作曲を習っているんです。始めるならアップサイドのボラティリティがある仕事がいい。コンサルタントと作曲なら、両極端ですからどちらにも刺激を与えあって楽しいですしね。それに、音楽などのアート系は一度売れると爆発的に収入が入ってくるからチャンスもあります。

干場 やはり女性向けの講演や取材が多いのですが、これからの時代、女性のほうが人生を楽しむという点では有利かもしれないと思いますね。今は、男性の単身赴任は当たり前ですけど、昔は、女性が、結婚や出産で仕事を辞めることや、夫の転勤についていくのは当たり前で、キャリアを得たくても得られなかった。その分、男性ほど、地位やこれまで積み重ねてきたものにこだわらなくて、というか、こだわりたくてももともと持っていなかったので、そういうことから自由ですから。

山口 僕の前職の元同僚たちも、「なんであんなにつまらなそうにしているんだろう?」と思いますよ(笑)。会社の人事のことばかりを気にしていて、もっと好きなことをやればいいのにと思います。今は人生100年時代ですけど、夏目漱石は40代で亡くなっているんですよね。僕らはかつての人たちが1回の人生で行ったことを2回やれるわけですから、40代からいくらでも新しいことにチャレンジすればいい。

 今は、昔の人の人生を2回、生きられるわけです。50歳で全く新しいことを始めても30年はできる。40代、50代でチャレンジするのもむちゃなことではないわけです。世の中全体で考えても、日本は本当に窮屈。ルールが出来上がった途端、絶対正義を振りかざす者が現れる。それに、みんなわがままじゃないから、世の中こういうものだと思い込んで、自分に「できない」という呪いをかけています。もっと自由で、多様性があるべきです。そのためにはもっとみんな、ものを作るという仕事をやったほうがいい。自分の作ったものが世の中に出ることは、本当に楽しいですよ。

―― 具体的に「自分の好きなこと」を仕事にしてどう生きていけばいいのか、続きは後編の干場弓子×山口周 楽しい仕事で生きる方法で。

取材・文/川辺美希 写真/小野さやか

干場弓子(ほしば・ゆみこ)
ディスカヴァー・トゥエンティワンCo-founder
愛知県立旭丘高等学校、お茶の水女子大学文教育学部卒業。世界文化社『家庭画報』編集部などをへて、1985年、ディスカヴァー・トゥエンティワン設立に参画。以後35年間、社長として、同社を取次を通さない直取引で日本で1、2位を競う出版社に育て上げてきた。自ら編集者としても、勝間和代氏ほか多くのビジネス系著者を発掘、さまざまなシリーズを立ち上げてきたほか、業界団体である書協初の女性理事として、日本出版界の海外進出に尽力してきた。現在は、講演・執筆や企業の顧問などを行う。近著に『楽しくなければ仕事じゃない』(東洋経済新報社)がある。7月にオーディオブック版もaudiobook.jpにて発売。個人サイト、オーディオブック『楽しくなければ仕事じゃない』※特典音源に干場弓子・山口周対談音声も収録予定
山口周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成