【ポイント2】防災関連アイテムは「普段使い」を

 防災グッズをはじめ、いざというときのための情報収集源は「防災専用」と考えると、ほとんど使う機会がありません。本当に必要なときに使い方が分からなかったり、ずっと使わなければ「いらないから消しちゃおう」と、削除してしまったりすることも。高橋さんは、「防災時に役立つアプリやSNSは『普段使い』しておくのがポイント」と強調します。

 「例えば、自宅だけでなく職場やよく出かける場所のハザードマップや地盤をチェックして、友人や同僚と話題にしてもいいでしょう。引っ越しを考えているなら地盤が強い場所を選ぶなど、家探しにも役立ちます。美しい雲や空の画像を投稿しているSNSは、更新するたびにチェックすると心が和みます。日ごろからこまめにアクセスをして使い慣れておけば、いざというときにも素早く情報が手に入り、重要な情報源となりますよ」

(防災グッズは中編で詳しく紹介します)

●「防災のしおり」で避難計画

 水害時には「大丈夫だろう」と思って動かなかった人だけでなく、「逃げたいけれど、どこに逃げればいいか分からない」と迷っていて初動が遅れた人も逃げ遅れる可能性がある。都市部だと早い段階で避難所がいっぱいになり、遅れて行くと入れないこともあるので早めの行動がベストだ。

 「そのために、『旅のしおり』感覚で『防災のしおり』を作ってみましょう。特別視をせずに避難計画を立て、普段から意識付けしておくのがおすすめです」(高橋さん)

<避難計画の例>

大雨特別警報が出たら、天候が悪化しないうちに……

【行き先】
・水害などのリスクの少ない実家や知人宅に泊まりに行く→知人に了解を取っておく
・会社にいるときは会社近くのビジネスホテルに泊まる→スマホに宿の電話番号を登録

【持ち物】
・常備薬やコンタクトレンズなど→大量の水や食料は必要ないが、数日間の旅行に持っていくものを想定。手に入りにくい必需品を中心に書き出す

【移動手段】
・公共の交通機関は暴風雨に備えて計画運休をする場合があるので、早めの避難が重要 ・悪天候のなかの車の移動は水没や立ち往生の可能性があり危険。車を使う場合は天候が悪化する前、渋滞する前に移動を

 具体的に流れを決めて、心構えをしておけばあとは行動に移すだけ。また、家族と同居している人の場合は、意見の相違で逃げ遅れることがないよう、「こういう警報が出たら、避難しよう」とあらかじめ話し合っておくことが大切です。

 地震と違って大雨や台風の情報は数日前から分かります。「大雨特別警報」のように頭に「特別」という名称が加わったら要注意。「特別」とつくほどの大雨は同じ場所では数年に1度くらいなので、この警報が出たときにどう行動するかを具体的に決めておくといいでしょう。避難すると、交通費や場所によって宿泊費などがかかり、どうしても出費がかさみますが、「それも数年に一度あるかないかだから、躊躇(ちゅうちょ)せずに避難しよう」とあらかじめ腹をくくっておくと、そのときになって迷いません。

 「浸水後の外出は、水量が膝上を超えると簡単に足をすくわれますし、マンホールのふたや流木にぶつかるなど非常に危険です。避難は早いほうが移動もスムーズ。迷ったときは『より安全なほう』を選んで行動してください。想定よりも被害が小さくなったときも、経験値が蓄積されることで今後に生かすことができますよ」

浸水後の外出は、危険がいっぱい (C)江戸川みんなの防災プロジェクト イラスト:エムラヤスコ
浸水後の外出は、危険がいっぱい (C)江戸川みんなの防災プロジェクト イラスト:エムラヤスコ

 中編「女性視点の地震対策 日常の備えと生活の工夫・自宅編」は、地震対策に関する基礎知識と備えについてお届けします。

高橋聖子
インクルラボ代表/防災士
高橋聖子 海外・国内の被災地支援に20年以上関わり、フリーランスのコンサルタントとして調査・事業評価を実施。自治体などからの依頼で防災研修の講師を務めるほか、地元・東京都江戸川区で、仲間とともに「江戸川みんなの防災プロジェクト」を立ち上げ、地域防災力アップに取り組む。内閣府「防災研修プログラムの改定に関する検討会」委員、「女性防災ネットワーク東京」呼びかけ人、明治大学プログラム評価研究所客員研究員。

取材・文/加納美紀 取材・構成/加藤京子(日経doors編集部) 写真/PIXTA