クラファンではなく、資金調達に挑戦

 「私自身、吸水ショーツなどを使っていましたが、『もっとこうだったらいいのに』と思う点がたくさんありました。例えば、水着のような素材のものは安心感があるけれど、もう少し普段の下着と変わらない感覚で身に着けられるものがほしいと思ったんです。

 そこでフェムテック市場について自分なりにリサーチしたとき、この分野や女性の起業に対して、社会の理解が低いのではないかと感じたんです。ビジネスの世界は、まだまだ男性が中心なので、資金調達がスムーズにいかないケースがあります。女性の起業家が多いフェムテック分野では、資金不足から製品を少量で生産するしかないケースが多いため、結果として高価格になったり、種類が限られてしまったりするのではないかと考えました」

 信近さんは、「吸水性とはき心地を両立させ、かつ手に取りやすい価格」を目標に、自身で女性用アンダーウエアを開発、販売しようと決めた。そこで、理想の製品をつくるためにはどのようなステップを踏んでいくのが一番いいか、思案を重ねた。

 「適正価格をかなえるには、ある程度ロット(製造量)を大きくする必要があります。たくさん生産しても販売数が伸びなければ、ビジネス的にダメージを受けてしまう。でも、多くの人の手に届く価格を実現するには、最初から思い切ってロットを大きくしようと決めました。そのためには、潤沢な資金が必要となるため、法人を設立して資金調達しようと考えたんです」

「自分がユーザーの立場から市場を俯瞰(ふかん)したとき、フェムテック製品にはもっと多くの選択肢があってもいいと感じました。私自身もユーザーとしての意見がたくさんあったんです」
「自分がユーザーの立場から市場を俯瞰(ふかん)したとき、フェムテック製品にはもっと多くの選択肢があってもいいと感じました。私自身もユーザーとしての意見がたくさんあったんです」

 個人や小規模のチームで新規事業のプロジェクトを進めるのであれば、クラウドファンディングを活用する方法もあるが、あえて5000万円の資金調達に挑戦すると決意。ネイトを設立し、財務のスペシャリストである知人にジョインしてもらい、さっそく資金集めに奔走した。

 信近さんは、「想像していたよりもスムーズに資金調達に成功しました」と話すが、資金調達を進める中で、フェムテック事業に理解を示さなかった人やハラスメントに当たるような発言をする人もいたという。

 後編 信近エリ 職業バイアス乗り越え5000万円の資金調達

取材・文/高橋奈巳(日経xwoman doors) 写真/小野さやか

下編「信近エリ 職業バイアス乗り越え5000万円の資金調達」では、次のストーリーを展開

■資金調達奔走で感じたジェンダーギャップ
■サンプルは46型、リリース直前で発売延期を決断
■女性からの歩み寄りで社会は変わる