遠く離れた場所にある「誰かの日常」

 5月中旬からカナダ・バンクーバーの叔母の家に滞在している。

 フリーランスで自由に休みを取れる今のうちに、カナダに永住している叔母の家を訪れたかった気持ちもあるし、鬱陶しい梅雨から逃れたかった気持ちもあるし、コロナ禍の裏側で「どこでもオンラインで仕事ができる」が一般化した恩恵を享受して失われた数年を取り戻そうとしている気持ちもある。

 バンクーバーは、夏は特に、自然と都市が融合した素晴らしい街だ。大通りから一本入ると自然豊かな道が広がっていて、リスとかハミングバードとかアライグマがいる。海にはアザラシがいる。季節ごとの花が咲いている道は、歩いているだけで幸せな気持ちになる。

「芝生の上をゆったり歩くカラス。東京のカラスが知ったら羨ましいだろうな」
「芝生の上をゆったり歩くカラス。東京のカラスが知ったら羨ましいだろうな」

 何より多様性に富んだ街で、海辺で本を読んでいると、英語も中国語も日本語も聞こえてくるから驚きだ。さまざまな国の料理も、レストランで高いレベルのものを食べられる。

 そういった自然の美しさや日本とは異なる環境に心が洗われたこともあり、(誰にでもできることではないと分かりつつ)大人になってから数カ月でも自分が生まれた国と違う地域で生きてみるのは面白く、「Airbnb」(※)などを使い、部屋を1カ月でも借りて海外で住んでみることを多くの人に勧めたくなっている。

※Airbnb:世界中の人たちが自宅などを宿泊先として提供するウェブサービス

 私は元来、海外旅行はあんまり好きではない。有名スポットなんてGoogleマップでも見られる時代だし、一番好きな場所は家の中だから。けれどそれでも、海外に短期的に住んでみることをオススメするのは、自分の日常から遠く離れた場所にある 「誰かの日常」 は、自分の価値観を揺さぶってくれるからだ。

 私は世の中に、こんなに自分とは違う「人間」をしている人たちがいるなんて、知らなかった。