IT業界最大のリスクは人材の流出

―― 貴社のアメリカ本社では、過去に女性社員2人が創業者マーク・ベニオフさんの元を訪れて、男女で給与の格差があることを指摘したとのこと。それを受けて監査を行ったところ、給与格差が確認されたため、合計900万米ドルを投資し、給与格差を是正したそうですね。そのようなイクオリティに関するエピソードが、日本オフィスでも何かあれば教えてください。

小出 ジェンダーに関してだけではなく、社員のさまざまな声を吸い上げる仕組みがあります。

 今、IT業界にとっての最大のリスクは、優秀な人材の流出です。優秀な人材を採用するためには、非常に大きなコストがかかってしまうんです。

 したがってどの会社もエンジニアたちに「この会社にいることが自分の人生の誇りだ」と思ってもらうために、働きがいのある会社になることは非常に大事になっています。社員の皆さんの多様性を認め、イノベーションを起こさせるような企業文化をつくらないといけません。イクオリティの考え方を社内に浸透させ、「人材」ではなく「人財」という見方をすることが求められているのです。

 その中で我々は「働きがいのある会社ランキング」(GPTW)で、日本法人として2年連続でナンバーワンに選ばれました。我々は働く方に「この会社にいてよかった」と思ってもらいたいですし、仮に社員が他社に転職しても「隣の芝生は青く見えたけれど、やっぱり元の会社に戻りたい」と思ってもらえるぐらいの企業でありたいと思っています。そのために社員の声を大切にしています。

社員の本音を聞いて寄り添う

小出 例えば私が社員を集めてさまざまな意見を聞かせてもらうラウンドテーブルを開催したとき、ある社員から「少子高齢化の中で、私は子どもが欲しい。会社に不妊治療の支援制度があると働きやすい」と言われたのです。私はそれを聞いて、すぐに不妊治療を支援する制度をつくりました。

 このように社員が一番関心のあることや、社員が何をどうしたいんだという本音を聞き、寄り添うことで、会社や社会を少しでも良くしたいと思っています。社員が「この会社にいることがハッピーでしょうがない」と思うように会社が取り組むことは、「信頼」「カスタマーサクセス」「イノベーション」「イクオリティ」はすべてつながっています。単発のプログラムを打ったら成功するというものではないと思います。

 また、何かで社員と飲んでいるときに、私の隣に来た男性社員が「実は僕はLGBTQなんです。小出さんからみんなに言ってください」と言われたこともありました。それぐらい、当社はいい意味でオープンです。社員たちがオープンな場でオープンに自分の話ができ、会社も個々の社員の立場で一緒になって考える。中にはやはり自分のことを隠しておきたいと思う人もいるでしょうから、無理に聞き出そうとはせず、個人が言ってきてくれたときにその人に向き合って対応することが大事だと思っています。

2019年4月、新卒社員の入社式で
2019年4月、新卒社員の入社式で

―― そうした、社員と語り合う場は定期的に設けているのですか?

小出 定期的にやっているというのではなく、例えば、新入社員が入ってきたタイミングで会社のカフェテリアを使って軽食を取りながら話す会(「オールハンズミーティング」「ファイアーサイドチャット」などと呼ばれる)などを開催し、そこに私が参加すると社員のみんなが集まってきてくれたりするんです。

 当社は中途採用もたくさんしているので、「前の会社ではこうでしたが、セールスフォースではどうなんですか?」という声がいっぱい聞こえてきます。これはグローバルで行っているイベント開催時の手法でもあるのですが、社内外のイベントで、私が壇上で話すということはあまりなく、みんなの真ん中を僕が歩きながら話すようにして、1対nのコミュニケーションがしやすくなるような工夫もしています。


※ 次の最終回では、社内で女性活躍を推進する方法と、今後の日本がクリアすべき課題について伺います。

小出伸一
セールスフォース・ドットコム会長 兼 社長
小出伸一 1958年、福島県生まれ。大学卒業後、1981年、日本IBMに入社。米国本社戦略部門への出向、社長室長、取締役などを務めたのち、2006年日本テレコム(現在ソフトバンク)に入社し、ソフトバンクテレコム(現ソフトバンク)副社長兼COO(最高執行責任者)に就任。2007年12月、日本ヒューレットパッカード代表取締役社長に就任し、2014年4月、セールスフォース・ドットコム代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)に就任。2018年6月から三菱UFJ銀行・社外取締役、2019年3月から公益財団法人スペシャルオリンピックス日本の理事に就任。

構成/小田舞子(日経xwoman編集部) インタビュー写真/稲垣純也

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