事前説明なく、頭蓋骨に穴を開けられた

 「『バン』と大きな音がして、全身に衝撃が走ったのですが、いったい何が起きたのか分かりませんでした。『私、転んじゃったの?』と思いつつフラフラ起き上がって、ロードバイクを路肩に寄せていたら、ドロッと口から血の塊が出てきました。後から分かったのですが、それは私の歯でした。顔を打った衝撃で、前歯が上下4本ずつ抜けていました」

 肩から手にかけて、アスファルトを引きずられたような傷もでき、全身血まみれだった。後ろを走っていた友人が救急車を呼び、10~20分後に到着。救急車に運び込まれた頃、やっと痛みを感じ始めた。「それまではアドレナリンが出ていたのか、痛みを感じませんでした。でも、診察をしてくれる医師の白衣が、肩や腕の傷にフワッと当たるたびに、それすら痛くて……」

 病院で検査をすると頸椎(けいつい)を骨折していることが判明。「そのとき医師に言われたんです。『これ、ラッキーでしたよ。骨折の位置があと1cmずれていたら、即死だった可能性があります』って。『そうか、私はラッキーだったんだ』と思いました

 3日間、軽井沢の病院に入院した後、移送車で東京の病院に移った。そこで、まずは頸椎の治療を最優先することになった。

 「では、装置を付けますね」と何の説明もなく、いきなり頭蓋骨に穴を開けられ、ボルトで「ハローベスト」という頸椎固定装具を装着することになった。「事前の説明は、むしろなくてよかった。説明されていたら恐怖のあまり拒絶していたかもしれません」と石塚さん。麻酔なしの施術で、痛みも相当あった。「でも、その後の苦しみを考えたら、そんな痛さはどうでもよいと思うぐらい、つらい2カ月が始まりました」

取材・文/小田舞子(日経xwoman doors) インタビュー写真/窪徳健作

下編「命危ぶむ大けがで時間の大切さを認識 ライターに挑戦」では、次のストーリーを展開

■2カ月間、装置を付け、首から上を動かせない療養生活
■私はあのけがの後も、生かされている
■ライターの仕事に初挑戦
■自分の責任を前より考えるようになった
■「時間=命」と考えるように
■命さえあれば、もう何が起きても大丈夫