決断したことで、人生の主導権を取り戻せた

 独立から2年後の2018年。前田さんは、再び大きな決断をした。会社を設立し、スタッフと共にフラワーブランド「gui」(グイ)を立ち上げたのだ。

 「フリーランスとして活動していく中で、一人ではできることに限界があることを知りました。私の目標は、花を届けるだけでなく、都会でも自然と人間との距離が近い暮らしを実現することです。そのためには、同じ思いを共有する仲間の協力が必要だと感じました」

 現在は、フラワーショップ時代に出会った仲間と一緒に、花農家の「顔」が見えるような花の届け方を考えたり、花をファッションやアートなど、さまざまな世界とコラボレーションさせたり。花を買う人に、より自然を身近に感じてもらえるような工夫をしながら、目標に向かって一歩一歩前に進んでいる。

「都会に花や緑があふれている様子を、おばあちゃんになる頃までには、この目で見てみたい」と、前田さん
「都会に花や緑があふれている様子を、おばあちゃんになる頃までには、この目で見てみたい」と、前田さん

 とはいえ、こうして「目標に向かって好きな仕事をしていても、大変なことはたくさんある」と、前田さんは笑う。「会社経営は初めてなので、決算処理などの経営面で苦労することが多く、思いだけはどうにもならない壁にぶつかることもあります」

 それでも、彼女は自分の決断を後悔したことはないという。

 「かつての私は、年齢や世間体などにとらわれて、与えられた仕事をこなすことに全力を注いでいました。つまり、自分の人生なのに、自分に主導権がない状態だったんです。でも今は、人生の主導権が自分にあるという実感があります。だから、勇気を出してアナウンサーからフラワーアーティストになったことは、間違いではなかったと思います」

 人生の主導権を、自分で握る。それが、自分の決断を肯定し、苦労をやりがいに変える秘訣なのかもしれない。

取材・文/茅島奈緒深 写真/本人提供