留学時に経験した「怒り」

 「このまま流されるまま生きていていいのか――という思いがあり、アイルランドに1年間留学することにしました。アイルランドに決めたのは、誰も私のことを知らない場所で、自分の力で生きてみたいと思ったからです。米国や英国など、日本人が多い環境だと、周囲の人に頼ってしまうと思ったので、あえて日本人が少ない国に行こうと思いました」

 この留学先での経験が、合田さんのマインドと行動を変えるきっかけとなった。

 「留学した直後に町を歩いていたら、いきなり差別的な言葉と一緒に、現地の人に生卵を投げつけられたんです。私も向こうも、お互いに数人のグループで歩いていたのですが、その中でアジア人は私だけ。生卵は、明らかに私を狙って投げられたものでした。でも、このとき私は何も言い返せなくて。とっさに言葉が出てこず、その場に立ちすくむことしかできませんでした

 日本にいたときには人種を意識したことがなかったので、自分が人種差別を受ける対象であることに、衝撃を受けたという合田さん。

 「アイルランドには友好的な人もたくさんいて、留学中に仲良くなった人たちも大勢います。ただ、この予想外の出来事に、当時はショックを隠せなくて。数日間は部屋にこもって、気持ちを整理する必要がありました」

 差別に対して憤りを感じる一方で、時間がたつにつれ、合田さんは「自分自身にも腹が立ってきた」という。

 「日本語でも英語でもいいから、とにかく、何か言い返せばよかったと思いました。理不尽な言動を目の当たりにしたときに、自分で自分を守れなかったことに対して、怒りを覚えたんです。だからこれからは、間違っていることに対してはきちんと声を上げ、声を上げるのであれば、普段からそれに見合った行動ができる人でいなければ――と、思いました」

留学経験が、行動や性格を変えるきっかけに
留学経験が、行動や性格を変えるきっかけに

「他人の目」からの解放

 この体験がきっかけで、合田さんはより能動的に英語の学習にも励み、相互理解のために異なる文化を持つ人たちとも積極的に交流するようになったという。

 「留学から半年後くらいに、駅で電車料金の支払いについて誤解が生じ、駅員とトラブルになったことがありました。周囲にはたくさんの人がいたので、それまでの私であれば、自分の意見は主張せず我慢していたと思います。でも、このときは周囲の目を気にすることなく、つたないながらも英語で自分の意見を伝えることができました。留学中は、これまで抑え込んでいたエネルギーが解放されたような1年間だったと思います」

 行動が変わると、性格にも変化が表れ始めたという合田さん。「帰国する頃には、他人の目を気にするよりも、自分の気持ちを大切にしたい。やりたいことがあるなら、すべて挑戦したいと思うようになりました」

 その「やりたいこと」の1つが、社会人になる前に「演技に挑戦すること」だった。