退団を決めたときには「鐘」が鳴る

 その後、遠山さんはまず劇団側に退団の意志を伝えて許可を取り、仲間に報告。「みんな驚いていましたね。仲間たちからも、私は早くに辞めるタイプではないと思われていましたから。仲間たちは泣いて惜しんでくれて……。でも、私は晴れやかな気持ちでした。そのときにはもう、退団を知らせる『鐘』を聞いていたので」

 退団を決めたタカラジェンヌたちは、その決断の瞬間のことを、「鐘が鳴る」と表現するのだという。「何かを知らせる鐘のように、退団するタイミングを教える鐘が鳴る」。劇団にいたあるトップスターがそう表現した。その鐘の音を聞くと、たとえ遠山さんのように長く続けるつもりであっても、迷いなく辞められるのだろう。

 「私の場合、母から電話があって祖父の話を聞いた後、その鐘が鳴ったのだと思います。あのときに、『あ、今だ』と直感的に思いました」

 ここまで話を聞くと、遠山さんは常に即断即決。何事にも悩まないタイプのようにも思える。しかし、「基本的には心配性で、何かあればウジウジと考えるほうだ」と本人は言う。

 「ただ、一度決めたら迷うことはしません。もちろん、決断した後にうまくいかないことはあるだろうし、それを考えると不安にもなります。でも、決断するときには、『不安はあっても迷いはない』という状態なんです。どんな道を選んだとしても、不安な気持ちが消えてなくなることはないと思います。だから不安があることは受け入れて、後悔しない道を選ぶ。すると不安はあっても迷いがない状態になり、気づいたら決断しているという感じです」

 遠山さんにとって、「不安」は決断をしない理由にはならない。なぜなら、不安があっても決断はできるから。不安がなくなるのを待つのではなく、自分が後悔しない道を見極めることで、遠山さんは大きな決断を迷うことなく下してきた。

 「祖父が他界したのは、私が赤城フーズに入った2年後。ちょうど私が常務となり、父の後を継ぐことを示せたときでした。常務になったことを祖父に報告し、『よかった』と喜んでもらえた後にお別れができたので、あのタイミングで宝塚を退団して、本当によかったと思っています」