母のひと言が転機に、「勝ち」にこだわる原点

 松本さんが柔道を始めたのは、6歳になる直前のこと。兄や姉が柔道を習っていたため、自然な流れで柔道を始めることになったのだという。

 「稽古がとても厳しく、休日も朝から晩まで練習をする柔道漬けの毎日でした。やめたいと思っていたのですが、それを道場の先生に伝える勇気がなく、試合に出ても、『あっさり負けるのは悔しいけど、1回戦で負ければ早く帰れるな』と思っていたほどでした」

 そんな気持ちで柔道を続けていたある日のこと、松本さんは母から、「薫は相手から逃げ回ってばかりで、ゴキブリみたいな柔道をするね」と指摘されたのだという。

 「普段はとても優しく、どんなときでも私のことを応援してくれる母からの言葉だったので、とても衝撃的でした。もともと闘争心が強かったわけではないのですが、このときから、『逃げ回るのではなく勝ちにいかなければ』と思うようになりました

小学生時代の松本さん。小学生のときに母からかけられた言葉が転機となり、柔道との向き合い方が変わったという。写真はベネシード提供
小学生時代の松本さん。小学生のときに母からかけられた言葉が転機となり、柔道との向き合い方が変わったという。写真はベネシード提供

 これが転機となり、「勝つこと」を意識し始めた松本さん。気持ちを切り替えると徐々に勝てるようになり、中学に上がると、全国大会で優勝できるようになった。

 「中学生のときに、『両親をオリンピックに連れていく』と決意し、母に約束したのを覚えています。この目標を達成するために、私は『勝つこと』にこだわるようになり、大学入学後は本格的にオリンピックを目指しました」

 そして本気でオリンピックを志す中で、松本さんは実感した。「柔道が好きで、才能もある天才と同じやり方では勝てない」――と。