警察学校時代に彼氏と破局、いったいなぜ?

―― 警察官になるためには、公務員試験に合格したあと警察学校に入る必要がありますよね。『ハコヅメ』では、訓練の様子や仲間とのやりとりがコミカルに描かれていて面白かったです。訓練はもちろん厳しいと思うのですが、それ以外で警察学校時代に印象に残っている出来事はありますか?

 警察学校は携帯電話が自由に使える環境ではないため、入校して1カ月で、当時付き合っていた男性と別れました(笑)。私が在校していたときは、学校内にある公衆電話で家族や恋人に連絡を取っていたのですが、大勢の生徒が公衆電話の前に並んでいたので、時間内に自分の順番が回ってくるとは限らなくて。相手が連絡を待っていてくれても、決まった日時に必ず電話ができるわけではないので、「遠距離恋愛よりもキツい」と言われて、お別れすることになりました(笑)。

―― 警察学校は、教官の指導も厳しいのでしょうか?

 指導してくれた教官は尊敬できる方ばかりでしたが、迫力がすごくて怖かったですね(笑)。ただ、怖い教官に鍛えられたことが、現場に出たときの自信になりました。警察学校を卒業後、交番勤務になって第一線で働き始めたときに、「目の前にいるガラの悪い人は、教官よりも怖くない!」と思えたので、足が震えずに済みました

―― そこまでの迫力なんですね(笑)。警察学校を卒業したあとは、警察官としてどんな仕事をされていたのですか?

 最初は交番勤務です。その後は生活安全部というところで、市民が安全に暮らせるように防犯に関する広報活動を行っていました。ただ、地方の小さな警察署で働いていたので、所属部署の垣根を越えて、防犯広報以外にもさまざまな業務を経験させてもらいました。

警察官時代は似顔絵捜査も担当

―― 似顔絵捜査にも携わっていたんですよね。どういう経緯で似顔絵を描くことになったのでしょうか?

 最初は「他に誰も手が空いている人がいないから行ってこい!」と言われて描きました。似顔絵は、事件の目撃者から顔の特徴や印象を聞きながら描いていくのですが、私の場合は目撃者との相性がよく、初めてのときに比較的すんなり似顔絵が描けて。一度うまくいくと自信がつくので、私も「次からは自分が描こう!」と思えましたし、警察官の中では絵がうまいほうだったので、その後も似顔絵が必要なときには声をかけてもらえるようになりました。

―― 特殊な訓練を積まれた上で描いたわけではないんですね。

 都市部の大きな警察だと似顔絵専門の捜査官がいる場合もありますが、地方の小さな警察署の場合は、さまざまな仕事を兼務しています。だから私の場合も、似顔絵専門の捜査官だったというわけではありません。

『ハコヅメ』3巻、その20「似顔絵狂騒録」より。捜査で初めて似顔絵を描くことになり、緊張のあまり目撃者に気を使わせてしまう川合。警察官も人の子。未経験の仕事にチャレンジするときは不安もあります! (C)泰三子/講談社
『ハコヅメ』3巻、その20「似顔絵狂騒録」より。捜査で初めて似顔絵を描くことになり、緊張のあまり目撃者に気を使わせてしまう川合。警察官も人の子。未経験の仕事にチャレンジするときは不安もあります! (C)泰三子/講談社

目指したのは「漫画家」ではない

―― この似顔絵捜査がきっかけで、漫画家を目指したのですか?

 いえ、私は漫画家になりたいと思って、漫画を描いたわけではありません。本当は、今でも安定した給料制の仕事をしたいと思っています(笑)。子どもの頃、父が知人の連帯保証人になり、だまされて借金も抱えていた家で育ったので、昔から確実にお給料がもらえる仕事をしたいと思っていたんです。

―― 漫画家になることが目的ではなく、給料制の仕事には今でも魅力を感じているんですね。それなのになぜ、漫画を描くことにしたのでしょうか?