どこにでもいる普通の人が、治安を守っている
泰 漫画を描こうと思ったのは、警察官時代に広報の仕事をしていたことがきっかけです。地域の人たちが安全に暮らせるように、防犯チラシを配るなどして啓発活動をしていたのですが、それだけでは伝えられることに限界があると感じていて。
また、地域の高校で講話をしたときに、「将来は警察官になりたいと思っていた」という男子高生に出会ったことがありました。その子は受け答えもしっかりしていて、体格もいいスポーツマンタイプだったのですが、親に「警察官のような大変な仕事があなたに務まるわけがない」と言われ、警察官になることを諦めたと言っていて。
その話を聞いたときに、「警察官はその子が思うような立派な人たちの集まりじゃないんだよ!」と思ったんです。むしろ、どこにでもいる普通の人たちが、ただただ一生懸命に仕事をして、毎日街の治安を守っているだけ。完璧でも特別でもなく、いい意味で「しょうもない人たち」が日々頑張っているだけなのに、そのリアルな姿を伝えきれていないばかりに、せっかく警察官になりたいと思ってくれた将来有望な男子高生を逃してしまったことが悔やまれて。「逃した魚は大きかったな」と(笑)。
その「しょうもない」部分も含めて、警察官のリアルな姿をもっと若い世代に知ってもらって採用につなげるためには、「漫画が一番伝わりやすいだろうな」と思ったんです。
―― 確かに『ハコヅメ』の登場人物は、どのキャラクターも人間味がありますよね。いい意味で「どこにでもいる普通の人たち」が事件と向き合っているので、警察官も自分と同じように、迷ったり悩んだりしながら仕事をしているのだと思えて、親近感が湧いてきます。
泰 警察学校で訓練や教育はしっかりと受けますが、実際に現場に出ると、最初はみんなヨチヨチです。警察官も、場数を踏むことによって自信をつけていくので、日々わちゃわちゃしながら仕事をしています。
―― どんな職業でも、新人のときはドキドキしながら経験を積んでいくものですが、警察官も同じなのですね。
泰 私が所属していた県警では、市民には「自分の家族だと思って接するように」という教えがありました。ただ、それでも判断に迷うことはあるので、その場合は上司に「この方法で進めていいか」と判断を仰いで仕事を進めていました。若手の判断だけで仕事をさせないように……つまりメンバーを孤立させないように、ガッチリとチームを組んで仕事をしていましたね。