顔を合わせたコミュニケーションを最優先に

 入社以来、約20年商品開発の第一線で活躍してきたという甲斐さんは、2度の産休・育休を経験。現在は時短勤務中だ。ユニカラーの開発も、限られた労働時間の中で効率的に働き、進めていった。周囲は時短勤務に理解があり、早く退社した後のフォローも快く引き受けてくれるという。

 「周りは大丈夫だよと言ってくれるので予定通りに帰ることができていますが、あとは自分との折り合いですね。打ち合わせも最後までいたいし、夕方になって仕事がのってくることもある。でも以前、トラブル対応のために残っていたら、仕事も最後までやり切れず子どものお迎えも間に合わなくて、どちらも中途半端になったことがあって(笑)。それからは、帰るときは帰ると割り切ろうと決めました」

 オフィスにいられる時間が限られる中で甲斐さんが最も大切にしているのは、顔と顔を合わせたコミュニケーションだ。チーム内で意見が食い違ったときも、周りのモチベーションを下げないことを意識する。同僚や部下が遠慮なく意見を入れる雰囲気づくりも欠かさない。別フロアの部署とのやりとりも電話で済ませずに、直接会いに行って話をする。「顔を見合わせれば、こちらが言ったことへの反応を見ながら話が進められるんです。話がかみ合っていないときも、調整がうまくいきます」。特にユニカラーの開発では、コストを抑えていかに使いやすい商品を生み出すか、開発チームとの膝を突き合わせた話し合いが不可欠だったという。

顔を合わせたコミュニケーションを重視している
顔を合わせたコミュニケーションを重視している

 会社にいる間は、人が関わる仕事などアウトプットの作業に注力する一方、通勤中や会社を出た後の時間は、アイデアや決断について考えるインプットに充てている。「商品を作る仕事は、自分の納得感との戦いでもあります。ここまででいいと思えば、それで終わりにすることもできる。でも私は、商品を生み出すためにはこだわりが重要だと思っています。これ以上なかったという自分のベストな判断に行き着くまで考えたい。ひとりで悩む時間も大事なので、それは会社の外でするようにしています」

注目
(6)ベストと思える判断に行き着くまで悩み続ける

 甲斐さんは、自身が開発に携わった筆記具を仕事道具として持ち歩いている。「もちろん使い勝手もいいんですが、自分が作った商品を使っていると励みになりますね。商品の発売日が決まると、時間がなくて追い込まれるし、しんどいと思うこともあります。でも実際に商品が発売されてヒットすると、やっぱり頑張って良かったなと思いますね」

ユニカラー ヒットの裏側
(1)カラー芯専用のシャープペンという他にない商品を思いついた
(2)多くの人に手に取ってもらえるよう低価格にこだわった
(3)開発担当者と顔を突き合わせて、ものづくりを続ける
(4)若い女性を意識したデザインで訴求
(5)商品の魅力を動画で分かりやすく伝える
(6)ベストと思える判断に行き着くまで悩み続ける

取材・文/川辺美希 構成/飯泉 梓(日経doors編集部) 写真/小野さやか