あえて味変えはしないシリーズ展開

 夏に向けて暑くなってくると、甘いデザートの売り上げは落ちるという。爆発的に売れたバスチーも、初夏には少しずつ勢いが衰えていた。コンビニスイーツがヒットすると、次の施策として定番なのがチョコ味やミント味などにする「味変え」のシリーズ展開だ。ただ、チーズケーキは味を変えるのが難しい。そこで東條さんは、価値をプラスしたバスチーのアレンジ商品を発売した。「家族や友人が集まる機会が増えるゴールデンウィークの前には、大人数で食べられる『ビッグバスチー』を発売しました。リピーターの方が休日に楽しむために買ってくださって、少し落ちた売り上げもそこで盛り返しましたね」

 8月末には、クリームや焦がしカラメルのソース、ナッツなどでデコレーションした高級感のある新商品「プレミアムバスチー」を発売。バスチーのおいしさを違う切り口で味わってもらうためのシリーズ展開だ。「無理に味変えをするより、トッピングしたほうがおいしいと単純に思ったんです。バスチーより少し高めですが、こちらもお客様に喜んでもらえました」

4、味変えではなくバスチーのおいしさを生かす付加価値を

 バスチーの成功の裏には、東條さんが過去に経験した失敗もあるという。東條さんは、レジ周りの総菜を担当していた2015年に、からあげクンのトムヤムクン味を開発。「当時はエスニックブームだったので、絶対に売れる! と思いました」。ところが結果はというと、歴代2番目の低い売り上げ。「今、振り返ると、エスニックフード好きの女性や若い層にターゲットを絞りすぎたんだと思います。おいしさにこだわるのはもちろん大切ですが、おいしくてもたくさんのお客様に求められる商品でないとコンビニでは売れない。その失敗は、チーズケーキの分野でおいしさを追求した今回の経験に役立ちました

 バスチーは2019年11月には、3200万食の売り上げを突破し、1000万食を超えたらヒットと言われるコンビニスイーツの世界で、発売から半年以上を経た今もヒットを続けている。東條さんは、バスチーは今後も味変えではなく、よりおいしくするための改良を重ねていくと語る。「チーズケーキは男性も女性も、年代も幅広くみんなが大好き。まだまだ可能性があると思います」。ヒットに満足せず、チーズケーキのおいしさを追求する東條さんの旅はまだ続く。

「これからもチーズケーキのおいしさを追求し続けます」
「これからもチーズケーキのおいしさを追求し続けます」

取材・文/川辺美希 撮影/北山宏一