「サーモンのおすし」事件

 私は日ごろの夫とのあれこれをイラストエッセイにして、インスタで「旦那観察日記」というタイトルでウェブにアップしています(※現在は休止中)。妊娠中、そのコメント欄に「夫婦は子どもが生まれてからが本番です」「今(夫に対して)持つ『かわいい』という感情も、子どもが生まれると全部反転しますよ。夫のこと、殺したくなりますよ」と産後の夫婦仲を案じるコメントがたくさんつきました。

 そういうコメントは、その人の経験としては事実だと思います。でも、妊娠している当人にとっては、あまり知らされたくないこと。だから私も夫への愚痴を本にはほんの一部しか盛り込まなかったんです。

 例えば、「サーモンのおすし事件」と名付けた、大げんかエピソードがあります。

 妊娠中、私は体調が悪くて外食や外での仕事が以前ほど出来なくなりました。だから家で食べるごはんだけが楽しみだったんです。でも、妊娠後期になって、大きくなった子宮が胃を圧迫しはじめると、楽しみにしている割にあまり多くは食べられなくなった。だからより一層、一回の食事が大事になって「今日はこれを食べよう」と、食事を朝から楽しみにするようになりました。

 あの日もそんな感じで、朝から「今夜はサーモンのおすしをウーバーイーツで頼んで食べよう」と決めていました。それなのに、やっと届いたおすしを広げて、さあ、食べよう! という瞬間に、夫が「何それ、うまそう」ってほぼ全部食べちゃったんです。彼はその後、自分だけ外食に行く予定もあったのに。

 私はもう悲しくて悲しくて、「私、今日、これしか楽しみがなかったんだよ。あなたは今から友達とレストランに食事をしに行くのに、私の唯一の楽しみのサーモンを食べちゃったの? なんでそんなことするの?」って大号泣。それなのに夫は逆ギレして「サーモンぐらいで泣くなよ!!」って。

 普段なら笑い話。でも、あのときは本当にショックで「私の気持ちを分かってくれる人なんて誰もいない」という気持ちになってしまいました。

 一日たって「あれは私にとって本当に大事なサーモンだったの」ともう一度伝えたら、「ごめんね」って反省していました。

 こういうささいなけんかは本当にたくさんありました。