ソーシャルビジネスを通じて社会問題の解決に取り組む、社会起業家集団ボーダレス・ジャパンに所属し、インドで社会起業家として奮闘中の水流早貴(つる・さき)さん(28歳)。2019年に単身インドへ渡り、家事代行サービスを提供する会社を起業しました。ところがその後、新型コロナウイルスの影響で事業の方向転換を余儀なくされ、現在はハウスクリーニングの会社を経営。スラムの女性たちの雇用を生み出すことで、貧困問題の解決に取り組んでいます。海外旅行好きの大学生だった水流さんが、なぜ途上国の社会問題に興味を持ち、ソーシャルビジネスの世界に飛び込んだのか。熱い志を貫き通して起業を果たしたその道のりと、彼女を支え続ける思いに迫ります。

前編 インドで貧困問題の解決へ 日本で学んだ成功アクション ←今回はここ
後編 インドで家事代行業 現地チームのモチベアップに成功

 メーカーのバイヤーとして世界を飛び回って働く父親の影響で、子どもの頃から海外に興味を持ち、「将来は世界を舞台に働きたい」という夢を抱いていました。地方暮らしで周りに外国人はいませんでしたが、スカイプで海外の友達をつくったり、英語のスピーチコンテストに出たりするなど語学の習得に励み、大学では英語を専攻。バックパッカーでいろいろな国を訪れては異国の文化に触れ、海外の人々と交流していました。

 とはいえ、当時はまだ「ただの海外旅行好きな大学生」で、途上国の社会問題は、自分からは遠いどこか別の世界の出来事という感覚。そんな私がインドの貧困問題に関心を持つようになったのは、現地の農村で出会った子どもたちの姿に衝撃を受けたことがきっかけでした。

20代で起業、インドでハウスクリーニングの会社を経営する水流早貴さん
20代で起業、インドでハウスクリーニングの会社を経営する水流早貴さん

 バックパッカーの一人旅でインドを訪れた時に、貧しい農村へ行く機会があり、そこでNGOが運営する孤児院の子どもたちと出会います。彼らは恵まれない境遇にもかかわらず、「将来は貧しい人を助けたい」「医者になりたい」などと、キラキラした目で夢を語り、勉強に励む日々。ところが、資金不足で孤児院の運営が危機的な状況にあることを知り、「生まれた環境によって夢がかなえられないなんておかしい!」と理不尽な現実に強い憤りを覚えました。

 それ以来、本を読んで調べたり、NGOの主催者に話を聞きに行ったりするなど、どうすれば貧困問題が解決するのだろうと考えるようになりました。大学のみんなにも社会問題に興味を持ってもらおうと学生団体を立ち上げ、海外での経験を話し、バックパッカーの魅力を伝えるイベントを行いました。さまざまな活動を通じ、貧困問題を解決するには、雇用を生み出すことが重要だと実感。親が仕事を得ることで、その子どもたちも教育を受けられるようになり、貧困の連鎖を断ち切ることができます。ビジネスで彼らを支援する社会起業家という働き方に興味を持ったのもその頃です。

 こういうと「行動的でリーダーシップのあるタイプ」を想像されるかもしれません。でも、実は全く逆。もともとは人前に出たり、自己主張したりするのが苦手です。私が学生団体を立ち上げた時には「あのおとなしい早貴に何があった!?」と、周囲に驚かれたほどでした。