情熱を見失い、提出した退職届

 実は過去に1度だけ本気で辞めようと思ったことがあります。34歳の時に、赴任先の中国から1度目の帰国をし、タウンマーケットという新規事業の営業責任者に就任したのですが、どうしても情熱の火が灯らない。こんなことは初めてで戸惑いました。会社や事業に不満があるわけではなく、自分の中でやる気が起きないという状態が数カ月続いたんですね。

リクルート提供資料を基に日経doors編集部で再構成
リクルート提供資料を基に日経doors編集部で再構成

 今思えば、いわゆる「燃え尽き症候群」のような感じ。中国では、何もないところから事業を立ち上げ、数えきれない苦難を乗り越えながら会社経営をしてきたので、思い入れも強かったですし、密度の濃い数年間を走り抜けてきました。そうした緊張感が途切れたのか、帰国後、何も考えられなくなってしまった。悩んだ結果、「とにかく辞めよう」と思い立ち、退職届を提出。次にどうするかなんて全く考えず、ノープランでした。

 退職届を出した後、お世話になった先輩のところへ挨拶に行って、「情熱が消えてしまったので辞めます」と伝えたところ、ものすごい勢いで叱られたんです。「たった数カ月のそんなことで辞めるなんてお前は何を考えているんだ!」「そもそも何のために働いているんだ」と、3時間怒られ続けました。忙しいのにすべての予定を取りやめて、私のためにこんなに本気で怒ってくれている。思わず胸が熱くなり「私はなんて短絡的だったんだろう」と反省し、目が覚めました。