リーダーには「ビジネスの共通言語」習得が必要

 役員という立場から、後輩の女性たちに「女性が活躍するには何が必要ですか?」とよく質問されます。そんな時、私がいつも話すのは、「ビジネススキルをつけて、できることを増やす」ということ。結婚や出産などライフイベントがある中で、やりたいことを選べる状態でいるにはビジネススキルを増やすしかないんですね。当たり前のようですがこれが鉄則です。

 ビジネススキルというと、語学や資格を思い浮かべる人も多いと思います。もちろんそれも強みとなりますが、それだけではこの先きっと行き詰まってしまう。それ以外に、企画や提案を通すスキル、数字を読む力、問題解決能力、プロジェクトマネジメントや チームビルディングの能力など、実践的なスキルが未来の自分を助けてくれます。

 実は、かくいう私も、ビジネススキルが圧倒的に足りず、苦労した時期がありました。20代の頃は、割と感覚的な部分で仕事ができて結果も出せたけれど、30代で組織のリーダーとして事業を運営する立場になり、壁にぶつかりました。

 ある時、上司が変わり、自分の企画案や提案書が全く相手にされなくなったんですね。最初は「この上司、分かってないなあ」と不満に思っていたけれど、同僚の男性社員の企画はすんなり通っている。何が違うんだろう? と観察していたら、あることに気づきました。彼の報告書は、ビジネスのフレームワークが活用されていて説得力があった。だから上司に響くものになっていたんです。ビジネスのフレームワークというのは、ビジネスパーソンにとって共通言語のようなもの。それが欠けていると、私のように相手にされないという場面にぶつかる可能性が高い。特に、リーダーや経営層と対峙するときは、そうしたスキルを身に付けておくことは大切です。

 彼の提案書がすんなり通る理由は、もう一つありました。提出する相手に合わせて資料の作り方をかなり変えていたんです。これは私にとって目からウロコでした。

 人によって興味や関心、価値観や理解度などは違います。データや分析好きな上司もいれば、直接的な一次情報を重視する上司もいますよね。相手によって仕様を変えることは、一見手間が増えて面倒に感じますが、提案を突き返されることを思えば、そのほうが合理的だし、効率がいいということになります。

 実際に、どうやって私がビジネススキルを身に付けたのか。教材にしたのは、経験豊富な社内の先輩たちです。「目標のスキル」と「誰をベンチマークするか」を決めて徹底的に観察し、そのやり方や考え方を盗みました。半年を目安に取得したら次のスキルに移行。それを繰り返しました。例えば、「数字を読み解くスキル」の時は、決算書の読み解き方が秀逸な先輩をベンチマークして「なぜパッと見て、違和感に気づくのですか?」と直接聞きにいったり、「構造化のスキル」を学ぶ時は、ベンチマークした先輩が作成した資料を読んでまねたりしました。学校に通って勉強するというのがあまり向かない私にとって、このやり方が一番実践的。こうして身に付けたスキルは、今、大いに役立っています。

 (中)20代で中国赴任 「頼る」マネジメントでチーム力強化 に続く。

柏村 美生(かしわむら・みお)
リクルートホールディングス執行役員、リクルート執行役員、リクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長
柏村 美生(かしわむら・みお) 1998年にリクルート(現、リクルートホールディングス)入社。ダイレクトマーケティング事業部で営業を経験した後、2002年に雑誌『ゼクシィ』の営業に異動。同誌の中国進出事業を提案して採用され、2004年から上海に赴任、中国版ゼクシィ『皆喜』を創刊する。CAPカンパニー美容情報統括部統括部長、リクルートライフスタイル執行役員などを経て、2015年4月にリクルートホールディングス執行役員、2016年4月リクルートスタッフィング代表取締役社長に就任。2019年4月から現職。

取材・文/西尾英子 取材・構成/加藤京子(日経doors編集部) 写真/リクルート提供