「やりたいことに素直に生きたい」「好きなことを仕事にしたい」。幼い頃や学生時代に抱いていたそんな思いを心のどこかにしまい込んで、目の前の毎日を忙しく生きている人は多いでしょう。ふとしたときに過去の情熱がよみがえってくることがあっても、ゼロからのチャレンジというハードルの高さは、なかなか最初の一歩を踏み出す勇気を与えてくれませんよね。今の仕事が、多くの人の憧れの的であったり、それなりに楽しく働ける職場であったりすればなおさら、「この仕事を手放してまでやるべきなのか?」というためらいが、足かせになるのではないでしょうか。客室乗務員(キャビンアテンダント・CA)から広報・デザイナーへと、思い切った転職で自分の夢を叶えた河野紗也さんに「好き」を仕事にする秘訣を聞きました。

河野紗也さん 大学卒業後、志望していたアートディレクターの職を諦めて大手航空会社に就職。客室乗務員として国内線・国際線に乗務し、機内サービスや保安管理を担当。体調を崩し、乗務停止になったのを機にキャリアを見直し、「本当に好きなこと」を軸に転職活動をしてフリーのイラストレーターに。応募したコンテストでグランプリを受賞したのをきっかけに、仕事の幅を広げる中で現在勤めるhananeの代表と出会い、2019年にデザイナー兼広報・PRとして転職。
河野紗也さん 大学卒業後、志望していたアートディレクターの職を諦めて大手航空会社に就職。客室乗務員として国内線・国際線に乗務し、機内サービスや保安管理を担当。体調を崩し、乗務停止になったのを機にキャリアを見直し、「本当に好きなこと」を軸に転職活動をしてフリーのイラストレーターに。応募したコンテストでグランプリを受賞したのをきっかけに、仕事の幅を広げる中で現在勤めるhananeの代表と出会い、2019年にデザイナー兼広報・PRとして転職。

「やりたいこと」を追って、CAからイラストレーターへ

CAを辞めてイラストレーターとなった河野さん。現在はhananeの広報・デザイナーとして活躍
CAを辞めてイラストレーターとなった河野さん。現在はhananeの広報・デザイナーとして活躍

 昔から、絵を描くのが好きだったという河野さん。大学ではメディアアートを選考し、卒業後は広告代理店でアートディレクターとして働きたいと思っていたといいます。ところが、就職活動を始めてすぐ、アートディレクターになるにはポートフォリオの提出が必要であることが分かります。ポートフォリオとは、志望者の実力やセンス、実績を客観的に評価してもらうための作品集のこと。河野さんが目指していたアートディレクターやデザイナーなどのクリエィティブ職では、新卒であっても提出を求められることが少なくありません。

 「そのときは自分をアピールできるような作品づくりを行っていませんでした。ポートフォリオがなくてはなかなか難しいということが分かったので、卒業してから留学をしてMFA(美術学修士)を取得しようと決めました」

 ところが、ここでもう一つ、予期せぬ問題が起こりました。申し込んでいたコースが、その年は開講しないことになったのです。そこで、大学卒業後に急きょ就職活動を再開。大学在学中に外国から来る留学生の学生生活をサポートする国際交流の機関に属していたこと、また外資系の大手カフェチェーンでアルバイトをしていたことから、海外と日本の架け橋となる職業で経験を積もうと決め、4月に既卒者採用を行っていた航空業界の客室乗務員に照準を絞りました。

 とはいえ、客室乗務員といえば、倍率20倍ともいわれる狭き門。河野さんは、約1カ月の準備期間にほぼ独学で礼儀作法やコミュニケーションスキルなどを学び、英語力にも磨きをかけて、試験と面接に臨みました。結果は見事合格。国内線・国際線に搭乗し、機内サービスや保安管理を担当しました。

 「仕事はとてもやりがいがありました。心地よいサービスを提供することは当然として、プラスαの付加価値を提供するにはどうすればよいか、お客様に感動を与えるために必要なことは何か、常に考えながら仕事をしていましたね。定期訓練にも、保安要員としての自覚を持って取り組み、前向きに仕事に取り組むことができていました」と振り返ります。

 しかし、時差もあるハードな環境下の仕事で河野さんは疲労から体調を崩し、会社の規定によって乗務停止を言い渡されてしまいます。