人生には、しばしば「踊り場」のようなタイミングが訪れます。がむしゃらに階段を登ってきた足をしばし止め、惑い、揺れる時期。「このまま登っていいのかな」「今までの道のりは正しかったのかな」。そんなときに、横で励ましてくれる人、「だいじょうぶだよ」と認めてくれる人、トンと背中を押してくれる人が、一人でもいたら……。人生の転機を迎えた女性が、なにげない出会いを通じて一歩踏み出す、“救い”のショートストーリーを毎月お届けします。

シオリ
21歳、大学生。最近、就職活動を始めたばかり。明るい性格でなにかと器用なので、勉強も恋愛もそつなくこなしてきた。友人も多く毎日楽しいけれど、これといった特技や情熱を傾けられるものがないのが悩み。2人姉妹で3歳上に姉がいる。

 やりたいことが、ない。
 見つけ方も、わからない。

 私はさっきから、白紙のエントリーシートを前に呆然としている。カーソルが急かすように点滅する。

 ビジネス街にあるこのスタバは、とても“スタバらしい”、スタバだ。
 コーヒー豆の香りが鼻をくすぐり、BGMもほどよい音量、ほどよい選曲。店内はスーツ姿ばかりで、みんなすごく「ちゃんと」している。相手の目をまっすぐ見て話したり、高価そうなメガネ越しにタブレットをにらんだり。
 古びたノートPCを開いて身動きができないでいるのなんて私ぐらいだ。慌てて背筋を伸ばし、染めたての黒髪をなでつける。

 やりたいこと、人生の目標……。21年間見つからなかったものが、今さら見つかる気なんてまったくしない。

 思えば、ソツのない人生だった。
 勉強だって、運動だって、恋愛だって、どれも無難にこなしてきた。そこそこいい高校を出て、まあまあの大学に入り、中の上ぐらいの成績で単位も取ってる。

 人よりちょっとだけ器用。それが私の長所だ。
 みんなからほめられるコツなら分かる。でも「やりたいこと」と聞かれると、途端に途方にくれてしまう。
 面接終わりで、エントリーシートをイチから書き直そうとスタバに入ったものの、見事にひと文字も進まない。

 気分転換にスマホを取り出す。
 手をつけてなかったフラペチーノにカメラを向ける。可憐にホイップされたクリームの上に、色とりどりのトッピングが乗っている。
 きれいに撮れる角度を試行錯誤し、シャッターを押す。オッケー、オッケー。まずまずきれいに撮れました。
 で、そのまま、SNSに上げようとしたけれど、そこで手が止まった。

 いつものように、そこそこ「いいね!」がもらえる、無難に面白いことを書いて上げればいい。
 でも。
 それって私のしたいことだろうか。

 一度そう考え始めるともう、ジェットコースターのように思考がネガティブ世界を駆け巡る。

 そもそも、こういうところがダメなんじゃないか。
 無難にフラペチーノを頼んで、それっぽい写真を撮って、SNSに上げて。そんなことをしてるから、やりたいことが見つからないんじゃないか。
 無難じゃダメだ。そつなくじゃダメだ。
 私はダメだ。私なんかダメだ……。

 テーブルに突っ伏すと、ついさっきまで近くのオフィスビルで受けていた、インターン面接の記憶がよみがえる。