人生には、しばしば「踊り場」のようなタイミングが訪れます。がむしゃらに階段を登ってきた足をしばし止め、惑い、揺れる時期。「このまま登っていいのかな」「今までの道のりは正しかったのかな」。そんなときに、横で励ましてくれる人、「だいじょうぶだよ」と認めてくれる人、トンと背中を押してくれる人が、一人でもいたら……。人生の転機を迎えた女性が、なにげない出会いを通じて一歩踏み出す、“救い”のショートストーリーを毎月お届けします。

タカコ
27歳、会社員。マイペースでのんびりとした性格。女の子らしい服装やノリが苦手で、会社で女子キャラを期待されても、応えられないのが悩み。趣味はアイドルの追っかけで、“推し”について話すときは早口になる。一人っ子。

 女らしさってなんだろう? かわいいってなんだろう?

 早朝のゴルフ場で慣れないゴルフクラブを素振りしながら、内心、そんなことばかりを考えている。
 山の中にあるコースは眺めがいい。天気にも恵まれ、爽快そのもの。それなのに、私の心の中は曇ったままだ。

 ゴルフとは無縁の人生を送ってきた。
 ゴルフなんておじさんと一部のキラキラ女子がやるもの、と思っていた。それなのに今回初めて、社内のゴルフコンペに出るはめになったのには、ワケがある。

 そもそも私には、「かわいげ」というものが欠けているらしい。
 普段から職場のおじさんには「もう少し女の子っぽくしたら?」と言われ、キラキラ女子社員からは「素材がいいのにもったいないですよー」と言われる毎日だ。

 確かに、華やかな服装で着飾ったり、かわいくメイクをしたりするのは昔から苦手で、服装も髪型も正直、地味なほうだと思う。
 とはいえ、27歳の会社員としては、ある程度女子っぽくしたほうが周囲は喜ぶし、仕事もしやすい。分かってる。けれど、できないのだ。
 それは、ちょっとしたコンプレックスでもあった。

 先々週のこと。
 ランチのときの話の流れで、アイドルの追っかけをしていることが職場のみんなにばれると、ちょっとした騒ぎになってしまった。
 「意外すぎる」だの「普通の男はダメなの?」といった大きなお世話は次第に、「もっと女の子らしい趣味を持ったほうがいい」というおせっかいへ発展し、最終的に「ゴルフでも始めてみたら?」という押しつけへと、エスカレートした。
 結局私も、弱みを握られたような負い目を感じつつ、しぶしぶ、ゴルフコンペへの参加を承諾させられたのだ。

 と、そういうわけなので、朝から気持ちはまったく上向かない。
 やるからには、と何度かレッスンに行ったけれど不安は尽きないし、「ゴルフをしている自分」になじめなくて、素直に楽しめない。

 買ったばかりのゴルフウェアの裾が気になって、何度も手で直す。
 ギャルっぽいデザインで全然好みじゃないけれど(これでも一番マシなのを選んだ)、なぜか、朝から評判だ。「かわいい」「女の子らしい」と、みんな口を揃える。

 ますますわからない。
 推しのアイドルに100本のバラの花束を贈るほうが、むしろ女らしくないだろうか。花屋の店員さんには「素敵ですね」ってほめられたのに。

 などと、うじうじ考えている間に、スタートの番が回ってきた。
 ゴルフというものは、4人ずつ1組になって回るものらしい。コンペには会社全体からおよそ30名ほどが参加している。
 一緒に回るのは、「ゴルフでもやってみたら?」と押しつけてきたおじさんと、派手な黄色のウェアが板についているゴルフ女子。ふたりとは部署も同じだ。そしてもう一人、違う部署のあまり面識のない女性社員が同じ組だ。

 ティグラウンドという、ちょっとした土手のようなところからひとりずつ打つ。
 まずおじさんが打ち、次にゴルフ女子が打った。さすがに上手い。ボールは遠くまで飛んでいき、フェアウェイという真ん中の芝生のスペースに止まった。

 さて私の番だ。
 緊張しながら、ティグラウンドに登る。