人生には、しばしば「踊り場」のようなタイミングが訪れます。がむしゃらに階段を登ってきた足をしばし止め、惑い、揺れる時期。「このまま登っていいのかな」「今までの道のりは正しかったのかな」。そんなときに、横で励ましてくれる人、「だいじょうぶだよ」と認めてくれる人、トンと背中を押してくれる人が、一人でもいたら……。人生の転機を迎えた女性が、なにげない出会いを通じて一歩踏み出す、“救い”のショートストーリーを毎月お届けします。

レイカ
30歳、会社員。明るく朗らかな人柄で、職場でもプライベートでも人間関係は良好。唯一、結婚を急かしてくる母親との距離感が悩みのタネ。趣味は学生時代から打ち込んでいるゴルフ。3歳下に妹(実家住まい)がいる。

「年末は帰ってくるんでしょうね?」
 会議の最中にスマホをチェックしたら、母からのLINEが目に入り、顔をしかめる。
 と同時に、ちょっとした自己嫌悪に陥る。

「親がうっとうしい」という感情。
「親は大事にしなければならない」という理性。
 ここのところ、いつもそのせめぎ合いだ。

 30歳を迎えた今、仕事もプライベートもそこそこうまくいっていると思う。
 人間関係も良好で、先月の社内ゴルフコンペでは新しい女友達もできた。その日がコースデビューという彼女とは、その後もたまに連絡を取っている。

 そんな私にとって、母は唯一のアキレス腱だ。
 母との距離の取り方が、年々分からなくなっている。私は軽くため息をついて、LINEを閉じる。
 返信はあとにしよう。

 古いタイプというか、田舎っぽいというか、うちの母は、ことあるごとに結婚を急かす。
「私は早くに結婚して幸せだった。だから、あなたもそうしなさい」
 本気の本気でそう訴えてくる親に、私はなんと答えればいいだろう。

「お母さんのころとは時代が違うの」
「もう子どもじゃないんだからほうっておいて」
「あんまりうるさいと、もう実家に帰らないからね」

 何をどう言っても、分かってもらえるイメージが湧かない。ならば、いっそのこと無視すればいいかというと、そうもいかない。話は合わないし、気も合わないけれど、嫌いなわけではないのだ。
 肉親とは、どうにもたちが悪い存在だ。

 昨日も電話で1時間ぐらい延々とケンカをして、そのことを、朝、何の気なしに同僚に愚痴ると、みんな口をそろえて母の肩を持ったのでびっくりした。

「家族なんだから大事にしてあげなよ」
「悪気はないんだから聞き流しておけばいいんだよ」
「お母さんだって、さみしいんでしょ」