自分で選んできた道のはずなのに、途中でふと「これでよかったのだろうか」と不安になってしまうこと、ありますよね。学生時代にジーンクエストを起業した高橋祥子さんも、そんな感情に苦しんだ時期があったそう。連載第1回では、そのキャリアを振り返りながら、迷って動けなくなってしまいそうなときに役立つ思考法を教えてもらいました。

 毎日働いていると、ふと「これでよかったのかな?」という疑問にぶつかることがあると思います。いったん迷い出すと、仕事の進め方に始まり、「そもそもあのときの選択が間違っていたのでは?」と深みにはまってしまうことも。今回は私自身の経験から、そんなときに役立ちそうな考え方をお話しします。

葛藤にさいなまれた「起業後」のこと

 私は東京大学大学院在学中にジーンクエストというゲノム解析ベンチャーを立ち上げ、代表取締役になりました。ジーンクエストでは遺伝子情報を解析し、かかりやすい病気のリスクや体質などの健康チェックができるサービスを行っています。

 「大学院在学中に起業した」というと驚かれることがありますが、実は私の場合、「考え抜いた末の決断」ではありませんでした。「どう考えてもゲノム解析サービスは人類にとって必要だ」と確信していたので、思い立って1カ月で起業。ですから、起業するまでは全く悩みませんでした。

 悩みや葛藤が出てきたのは、起業後です。

 「一度も働いた経験がないのに、会社を経営できるの?」「ゲノムをビジネスで扱うのは危険だ」などと厳しい声を浴びせられ、落ち込んで家に帰ったこともありました。

悩めば悩むほど、葛藤から抜け出せなくなる

 それに時間の使い方でも悩みました。大学院在学中で論文を書き上げなければいけないのに、研究室にいるときは会社のことが気になる。会社にいるときは手つかずの論文が気掛かりで、常に罪悪感を抱いていました。睡眠時間を削り、限界の状態で論文にも仕事にも時間を割いているわりには目の前のことに集中できず、「1時間あたりの命」の充実度がすごく低かったと思います。

 これは私だけではなく、ビジネスパーソンに共通する悩みではないでしょうか。マルチタスクをこなしていたり、転職やスキルアップなど多数の選択肢から決断しなければならなかったりすると、「今は何をすべきか」「何をするのが正解か」と迷いが付きまといます。

 「こんなはずじゃなかったのに……」と思った私は、周囲の先輩起業家に「葛藤はありますか? あるとしたら、それは何ですか?」と聞いて回りました。そうすると意外にも「葛藤はない」と答える人が多かったんです。

 葛藤がないって、どういうこと? ここからお話しするのは、私なりに編み出した、そのメカニズムです。