学生時代に、日本初となる個人向けの大規模遺伝子(ゲノム)解析サービスを提供するジーンクエストを起業した高橋祥子さん。この連載では、理系出身ならではの視点で、20~30 代の悩みに効く思考法を伝授してもらいます。第2回のテーマは、日々付きまとう「不安」。ごく個人的な感情のようですが、引き起こされる背景には「遺伝子」が関わっているのだそう。そのメカニズムを知ることで、上手に対処できるようになるそうです。

「理系思考」を活用すれば、楽になる

 時々ツイッターの質問箱に、匿名のお悩みが届きます。「ダイエットをしたいのに、どうしてもお菓子を食べてしまうのは病気なのか」「日々の仕事でこんなにつらい、疲れたと思ってしまうのは、自分に使命感がないからなのか」……。どれも、悩んでいる本人にとっては深刻で、切実な問題です。

 私はそれらのお悩みに、専門分野である生命科学の視点などを交えてお答えすることがあるのですが、皆さんはどうもそれで気持ちが軽くなることも多いようです。前進するために個人の「エモーション(感情、意志)」はとても大切ですが、大前提として、私たちは人間という「種」です。エモーションの力だけではどうにもならない「法則」や「特性」にも影響を受けます。

 つまり、ネガティブな感情にさいなまれて時に動けなくなってしまうのは、きっと「あなただけ」のせいではない。自分の力でコントロールできること、できないことを切り分けるために「理系思考」が役立ちます。

「不安」は危険を察知するセンサー

 さて、今回のテーマは「不安」。壁にぶつかったり、ストレスフルな状況に直面したりすることを、避けて通るのは難しいものです。適切な負荷を自分にかけることで、メンタル面が鍛えられることもあるけれど、負荷が大きくなり過ぎると逆効果に。ネガティブな感情を上手にコントロールするために、私は「ロジカルに分解して対処」することを心掛けています。

 生命科学の視点も交えて、くわしく説明しますね。

 大原則として、私たちは「生物」だとお話ししました。その観点でみると、「不安」は遺伝子に組み込まれた機能の一つなのです。

 例えば、私たちの祖先が、野生の環境で生活していた時代のことを考えてみましょう。周りの物音や気配を察知し、「不安」を感じる機能はとても大切。うまく働かなかったとしたら、外敵の襲来や環境の変化に対応できず「個体として生存する可能性」は低くなってしまいますよね。不安は危険を察知する「センサー」だというわけです。

 一方、現代社会では、「個体の生存」それ自体が実際に脅かされる局面は少ないでしょう。だから、今遺伝子に感じさせられている不安に対しては、「さて、何を危険だと察知しているんだっけ?」「この不安は本当に必要なのか?」と、ロジカルに分解してみるのがおすすめです。

 では次ページから、要らない不安を見極める方法を解説します。