学生時代に、個人向けの大規模遺伝子(ゲノム)解析サービスを提供するジーンクエストを起業した高橋祥子さん。この連載では、理系出身者ならではの視点で、20~30代の悩みに効く思考法を伝授してくれます。最終回は、前向きな行動を後押しする「楽観性」の鍛え方について。高橋さんが専門とする生命科学で重要な「時間」という指標を意識するだけで、マイナスな感情に負けない思考法が身に付きます。

「時間軸」を見失うと正解が分からなくなる

 読者の皆さんは、自分の将来やこの社会の行く末について、悲観的ですか? 楽観的ですか? 「まあ、何とかなるでしょ」というタイプの人もいるかもしれませんが、真面目で向上心が高い人ほど、不確定な未来についてあれこれ考えてしまい、自分が今いる場所や取り組んでいること(あるいは取り組んでいないこと)を、肯定できなくなってしまうのではないでしょうか。

 今回は、生命科学で大切になる「時間軸」を切り口に、悲観的な人と楽観的な人とでどのような違いがあるのか、そして自分をプラスの方向へ導いてくれる「よい楽観性」を、戦略的に鍛えていく方法を考えてみたいと思います。

 連載第1回で、世の中には「絶対的な正解」はないというお話をしました。少しおさらいすると、直面している課題に対する「正解」は、現在から遠い未来へと続く時間軸の「どこにフォーカスするか」によって変わります。

 例えば、私が学生時代に起業したときのこと。周囲からしてみれば、「今は起業しないほうがいい」という答えを導き出すことは簡単でした。なぜなら、「当時の私の状況」というごく短い瞬間にフォーカスすれば、「会社勤めをしたこともないのに」「経験が足りない」など、ネガティブな要素を挙げることはいくらでもできたからです。でも、一方の私は「人類の未来にとって何が必要か」という長い時間軸に注目して、身の振り方を考えていました。結果として、「人類の未来をよりよいものとするためには、今起業する必要がある」という私なりの覚悟をしたのです。

 個体レベルではとても大きな出来事である「死」さえも、人間という種としての時間軸でとらえると、見え方が異なってきます。つまり、物事の意味付けや自身を取り巻く状況への評価に絶対的な正解はないということ。自身の内面ばかりにとらわれるのではなく、時間軸へと視点を広げる意識を持つと、進路を見極める手がかりが得られることは多いはずです。