喜びの感覚を取り戻すリハビリの方法

 もう一つ、劣等コンプレックスに悩まされないために大切なことがあります。それは、自分自身の喜びや幸せをきちんと感じる力を取り戻すこと。人の幸せを喜べず悩んでいる人の中には、自分の周りには「幸せだ」と感じていいはずの要素がたくさんあるのに、それを十分に喜びきれていないという例も多いのです。次の3つの方法で、喜びの感覚を取り戻しましょう。

(1)目を閉じて飲んでみる・食べてみる

私が開催している勉強会などでは、「目をつぶって水を飲んでみる」というワークをすることがあります。タネも仕掛けもない、ごく普通の水ですよ。それなのに、多くの参加者が普段よりもおいしく感じるということが起こります。目を閉じることで、余計な情報がシャットアウトされ、「味わうこと」に集中できるからです。日々たくさんの情報に振り回されている私たちは、普段の食事やお茶の時間さえも「心ここにあらず」になりがちなのです。

(2)好きな音楽に身を委ねて踊ってみる

「体の感覚を取り戻す」ことが目的です。ヨガで自分の呼吸に集中していると、全身の緊張がほぐれて、精神的にもニュートラルな状態になれた経験がある人は多いと思いますが、それと似ています。「ちょっと踊ってみよう」と言うと、多くの人は拒否反応を示しがちですが、大勢の前でプロの踊りを披露してほしいと言っているわけではありません。小さな子どもは、陽気な音楽が流れてくると自然に体が動いていますよね。リズムに身を委ね、軽く体を揺するだけでもいいのでぜひチャレンジを。気持ちが明るくなってきませんか。

(3)わざと大げさに喜んでみる

いつもより早く仕事が終わったり、努力した成果を上司に褒められたり……。そんな「ちょっとうれしい出来事」があったとき、きちんと心から喜んでいますか。「はあ、どうも」とか「別にそれほどでもないことだ」とかいう言葉でやり過ごしていると、人は「喜ぶ」という行為自体を忘れてしまいます。大きめにガッツポーズしてみるのもよし、思い切って拳を突き上げて「やったー!」と声に出してみるもよし。「いつもの自分よりちょっと大げさに喜ぶ」ことが、リハビリになります。公共の場では抵抗があるなら、自宅で実践してみるのも有効です。

 「最近不幸なことばかり続いている気がする」「人の幸せを喜べない自分は心が狭いのかもしれない」と考え始めてしまったときこそ、実践するチャンス。ぜひ気軽に試してみてくださいね。

取材・構成/加藤藍子(日経doors編集部) 文/華井由利奈 イラスト/PIXTA