鍛える行為が本業に与えた3つのメリット

 ボクシングに本気で取り組んでいることは、意外にも本業である医師の仕事によい影響をもたらしているのだそう。高橋さんは、次の3つを挙げます。

(1)想像力が豊かになる

 「診察に当たる中で、より患者さんの気持ちを思いやれるようになりました。例えば、病気が見つかって手術が必要な状況になったら、医師としては『早く手術をすること』を最優先にしてテキパキと話を進めがち。でも、本業以外にも大切な軸を持つ自分を患者さんの身に置き換えてみると、見方が変わります。もちろん治療は大事ですが、ボクシングの練習や試合のことなど、自分にとって大切な問題も踏まえた上で、治療計画を相談したいと考えるでしょう。私が『医師』以外の顔を持つように、目の前の患者さんも色々な顔を持っているはず。そういう想像力を持ちながら、接することができるようになりました」

(2)頭のスイッチが切り替わる

 「常に人と接し続けることになる医師の仕事。患者さんの人生と深く関わっていくことも多く、正直、家で休んでいても、仕事に関することをあれこれ考え続けてしまうことはあります。でも、トレーニングに励んでいる最中は、サンドバッグや目の前の相手に集中せざるを得ない。強制的に『仕事スイッチ』がオフになります。また、試合に備えなければ、と思うと、以前よりも食事や生活リズムに気を配るようになりました」

(3)「想定外」に強くなる

 「対戦相手がいるスポーツに特有のことかもしれませんが、『コントロールできるのは自分だけ』という感覚になるんです。頭の中でいくら事前にシミュレーションしても、パンチを一発もくらわずに試合を終えることなんてほぼ不可能。コントロールしきれない状況を、トレーニングを重ねることで『何とか切り抜ける、乗り越える』という経験の積み重ねが、自分自身への信頼感の向上につながっています。医師の仕事では、基本的に『想定外のミス』は許されないことなので」