ムッタが動くのは、常に「誰かのため」

 ムッタの言動を見ても、「誰かのため」に動くことがよくあります。

 子どもの頃、友達とケンカになった時、「強い奴は手を出すな」とヒビトを制して自ら立ち向かい、ボコボコにされました。自分のほうが弱いのに、弟を守ろうとしたのです。

 また、前職の自動車会社をクビになったのも、ヒビトのことを悪く言った上司に頭突きをくらわせたことが原因でした。ケンカも上司への反撃も、「ヒビトのため」なのです。

6巻#54「ドーハのきせき」
6巻#54「ドーハのきせき」

 そんなムッタが「自分の夢」にしたのは、幼少期から親交のあった女性天文学者、金子シャロンのために月面に望遠鏡を設置することだったのです。

 シャロンは、亡き夫の天文学者、金子進一博士が発見し、「シャロン」と名づけた小惑星の姿を見るために、そしてもっと遠くの星を見つけるために、月面に望遠鏡をつくる夢をムッタたち兄弟に語っていました。

 幼い頃のムッタは、シャロンのために「月に行きたい」と思うようになったのです。

 大人になったムッタは、一度は宇宙飛行士になることを諦めるなど紆余曲折を経験し、シャロンとの約束を忘れていました。宇宙飛行士の選抜試験に合格した後、シャロンの月面望遠鏡の計画が実現に向けて動き出したことを聞き、子どもの頃の約束を思い出します。しかも、シャロンは難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、残された命の時間が限られていました。

 自分はシャロンのために宇宙に行く。ムッタは改めて誓うのです。