※この記事は、日経ビジネス電子版の連載「『一歩踏み出せない』あなたをエースにする方法」を転載しています。

「受容性」が高い人として、理想的な上司、『宇宙兄弟』の金子シャロン(9巻#87 「シャロン」)
「受容性」が高い人として、理想的な上司、『宇宙兄弟』の金子シャロン(9巻#87 「シャロン」)

「面倒見のよさ」を勘違いしている

 一昔前は、パワハラ上司が問題でした。
 そして今、猛威をふるい始めているのが、「いい人と思われたい上司」です。
 これが、職場で人が育たない一番の原因、と言っても過言ではありません。

 このタイプの上司は、大抵、「優しくて面倒見のいい上司」と思われています。それはたいへん結構なことじゃないか、と思われる方も多いかもしれません。

 「面倒見がいい」とは、どういうことでしょうか。

 私たちが提唱するFFS理論(開発者 小林惠智博士、詳しくはこちら)では、「面倒見のよさ」は、人の個性を構成する5つの因子のうち、「受容性」の高い人に見られる行動と解釈しています。

 「受容性」の大きな特徴として、「相手が喜ぶことや、相手が元気な状態に貢献できることが一番の喜び」ということがあります。

 例えば、元気のない人を見かけると、気になって「なんとかしてあげよう」と行動に移します。それで相手が元気になると、「元気な姿を見るだけでいい」とか、「自分もうれしい」などと喜びます。

 ただ、それは同時に、自分が役に立っている実感を伴うので、「自らの存在を確認できている」という側面もあるのです。

 この実感を求めすぎると、面倒見のよさが裏目に出ることもあります。
 相手から反応がないと、それがストレスの原因となり、相手の役に立とうと過剰にお世話したがる。つまり、お節介になるのです。相談されてもいないのに、つい手を差し伸べたり、相手に肩入れしたりします。

 私が問題だと思うのは、自らの存在を感じるために、「優しい上司」や「面倒見のいい上司」、さらには「お節介な上司」に陥っているケースが多いことです。最近は360度評価の導入も進み、上司も部下からの評価を気にすることも、「よい人と思われたい上司」が増えている一因かもしれません。

成長のために一番必要なことは何か

 例えば営業の場合、難しいお客さんを抱えた部下を心配して、上司が一緒について行きます。あるいは、クレーム処理に同行し、部下と一緒に頭を下げたりします。

 また、開発部門のエンジニアなら、部下の仕事を手伝ってあげます。場合によっては、上司が自分で仕上げることもあります。

 ミスをした部下の気持ちをおもんぱかって、部下は何も言っていないのに「そうだな、反省してるんだな」と好意的に解釈して、終わらせてしまいます。

 こうした上司の「優しさ」が、なぜ部下育成には逆効果なのか。マネジメント経験のある方ならおわかりと思いますが、理由をまとめておきましょう。

 1つは、成長するには「自らの限界を知る」という経験が必要だから、です。

 営業なら、難易度の高い交渉事に直面して初めて、頭脳に汗をかく経験ができます。どうすれば相手の首を縦に振らせることができるのか、必死に考えるでしょう。

 どんな仕事であれ、壁にぶつかって追い込まれたときに、自分でどう乗り越えようかともがき苦しむ経験が重要です。追い込まれた状況を振り返り、反省したり内省したりするのも、自己と対峙する貴重な機会です。

 しかし、上司が「優しさ」を勘違いしてお節介を焼けば、その機会が失われてしまうのです。