日本女性の2人に1人(*1)が悩まされている生理痛。同じ女性でも、ほかの人の症状とは比較しづらく、悩みを伝えるのも難しいものです。「つらくても、医師への相談を躊躇している」という声も少なからず耳にします。けれども、毎月の生理と上手に付き合えれば、生理とともに過ごす約40年間のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)も上がるはず。そこで、生理と生理痛について積極的に情報発信をしている産婦人科医の甲賀かをりさんに話を聞きました。長い期間付き合う生理だからこそ、きちんと理解して、自分に合った対処法を知っておくことが、あなた自身の快適な暮らし方や働き方につながります!

1回目 現代女性は昔の女性の約10倍、生理の回数が多い!? ←今回はここ
2回目 女性の味方、生理痛の治療薬は避妊薬と同じ成分!
3回目 私の生理は大丈夫?「生理の異常チェックリスト」
4回目 頭痛、脱力感、イライラ…。実は生理が原因かも
5回目 教えてドクター!生理と低用量ピルの素朴な疑問
6回目 シェリーさんが語る「生理との上手な付き合い方」

*1 Journal of Medical Economics 2013; Vol.16, No.11:1255-1266

生理痛の多くは、プロスタグランジンが原因 つらい生理痛は、決して「自然」ではありません

甲賀かをりさん
甲賀かをりさん

 「生理痛」は、痛みの程度はもとより、症状、痛む場所などは、千差万別です。一人ひとりの女性は、毎月、人それぞれの生理痛を経験しているといってもいいくらいです。

 悩んでいる女性が多い生理痛ですが、その痛みを人に伝えることは難しいものですね。「生理痛があるのは、あたりまえ」「いつもの自然なこと」と我慢をしていませんか? でもその痛みは、不自然なことかもしれないのです。

 東京大学の研究(*2)によると、「生理痛がない」と答えた女性は約2割。残りの約8割が生理痛を経験していて、さらにそのうちの約4割の人が、治療が必要な状態でした。

*2 武谷ら「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)から見た子宮内膜症等の予防、診断、治療に関する研究」(総括研究報告書)2000年度

 「生理痛の中には、病気のサインである可能性があるものも。背後に隠れている生理痛の原因により、その症状や起こり方はさまざまです。生理痛がある人は、まず、そこに原因となる病気がないかを確かめておくことが大切。なぜ痛みが起きているのかを知ることで、より適切な対処法がわかります。

 生理痛が起きる原因はいくつかありますが、中でも大きな原因なのが“プロスタグランジン”の分泌です。

 プロスタグランジンは、ホルモンに似た働きをする物質で、排卵後に妊娠が成立せずに不要になってはがれ落ちた子宮内膜を、子宮を収縮させ血液とともに子宮外へ押し出す働きを担っています。つまり、生理の出血は、プロスタグランジンの分泌があるから起きるともいえます。

 さらにプロスタグランジンには、子宮収縮に伴い子宮への血流を減少させ、子宮内の神経を痛みに敏感にさせる作用があります。そのため、これが過剰に働くと、必要以上に子宮が収縮し、痛みを引き起こしてしまうのです」と東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座准教授の甲賀かをりさん。

「プロスタグランジンの分泌がつらい生理痛の原因に!」
<span class="fontSizeL">「プロスタグランジンの分泌がつらい生理痛の原因に!」</span>

 “ホルモンに似た働きをするプロスタグランジンの分泌で、子宮が収縮すると痛みが出る”と聞くと、「生理痛はつらくても、我慢するしかないのか…」と考えてしまいそうですが、ちょっと待って!

 生理は女性にとって自然なことですが、つらい生理痛は、決して自然ではないのです。

現代女性の生理の回数は昔の女性の8~9倍? 原因は、女性のライフサイクルの変化!

 実は、生理痛に悩む人が増えている背景には、現代女性が一生のうちに経験する生理の回数が、昔に比べてかなり増えているという事実があります。

 現代女性の一生の生理回数は、およそ450回。それに対し、昔の女性の生理回数はおよそ50回という興味深い研究報告があります。

 「クン族という、現代においても原始時代に似た生活を送っている部族を調査したところ、一生のうちに起こる生理はおよそ50回でした。一方、2015年の現代女性の調査ではおよそ450回。原始時代(的な生活をする人)と比較すると8~9倍、現代女性のほうが、生理回数が多いのです。

 その理由は、昔の女性(あるいは原始的な生活を送るクン族)に比べ、子どもをたくさん産まない、授乳期間が短い、出産年齢の上昇、晩婚化、初潮(初経)年齢が早い、閉経年齢が遅い…などが考えられます。

 一生の生理回数は、この100年でも大きく変わってきていて、1840年(江戸時代後期に相当)の女性は約100回。現代女性の4分の1程度だったという研究(*3)も。

 生理回数の増加に伴って、セルフケアだけではコントロールできない生理痛に悩む女性が増えています。

 女性の体は、本来これほど生理が多いようにはデザインされていないのです」(甲賀さん)。

*3 Am J Obstet Gynecol. 2016 Aug;215(2):201.e1-4.
「昔の女性に比べて、現代女性は、生理回数が多く、生理のある期間が長い」
<span class="fontSizeL">「昔の女性に比べて、現代女性は、生理回数が多く、生理のある期間が長い」</span>
図のピンク色の地色部分は、生理がある期間を表します