痛み以外の月経随伴症状の改善も期待できる

 そして、これらの月経随伴症状は月経困難症の一部と考えられており、月経困難症の保険適応のある治療薬LEP(Low dose estrogen progestin)剤は、生理痛も月経随伴症状も改善することが期待できるのです。

 「女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンを組みわせたLEP剤は、ここまでお話してきたさまざまな月経随伴症状の改善が期待できます。

 LEP剤を服用すると、排卵が起こらず、子宮内膜が厚くなることを抑制します。その結果、痛みの原因となるプロスタグラジンの産生量が減り、生理痛が弱まるので、月経随伴症状も改善するというメカニズムです。

 さらにLEP剤を「フレキシブル投与」「延長周期投与」といったのみ方にして休薬期間の回数を減らせば、薬をのんでいる間は女性ホルモンのアップダウンがなく、生理の回数も減ります。これは、つらい生理痛や月経随伴症状で困っている人にとっては、良い選択肢になります」(甲賀さん)。

 また、LEP剤を使うと痛みや貧血など、さまざまな問題も減り、それにともなって起こっていた不快な症状の解決にもつながります。

 ちなみに、月経困難症の治療はLEP剤以外に、漢方薬、鎮痛剤(痛み止め)などの選択肢もあります。自分に合った方法を婦人科で相談してみるといいでしょう。

メンタルや人間関係は安定、仕事の効率が上がる

 月経痛や月経随伴症状がなくなると、メンタル(気分)や仕事のパフォーマンス、人間関係も安定するでしょう。不快な症状を減らすことは、社会全体にとってのメリットも大きいのです。これは、今注目されている「持続可能でよりよい世界を目指す国際目標=SDGs(Sustainable Development Goals)」とも合致します。

 「女性の月経困難症(つらい生理痛や月経随伴症状)による社会的・経済的影響は想像以上に大きく、日本全体で年間約6800億円の損失になるという数字が出ています。

 そのうち、約70%が女性の労働生産性の損失です。そのほか、通院費用14%、OTCの医薬品費用15%も経済損失があると報告されています。*1

月経困難症による1年間の労働損失は約5000億円
月経困難症による1年間の労働損失は約5000億円

 また、月経困難症の女性に対してLEP剤による治療を行ったところ、多くの女性のQOL(生活の質)が上がったという研究もあります。QOLの中身を見ると、必ずしも身体的な痛みだけでなく精神的なQOLなども上がっています。*2

 具体的には、LEP剤による治療で生理痛が軽減されると、単に痛みの軽減だけにとどまらず、生理時に起こる吐き気、疲労感・倦怠感、食欲不振、下痢などの身体症状、イライラ、憂うつなどの精神症状も改善へ向かい、女性の生活の質全体が上向きになっているのです」(甲賀さん)。

 生理痛や月経随伴症状のわずらわしさがなくなることで、心も体も快適になって、仕事のパフォーマンスやコミュニケーションもアップします。人間関係が良好になれば、毎日の生活も人生もより前向きになるでしょう。こうした面を考えると、生理痛だけでなく、生理時の不快症状を抱え続けることは、大きな損をしていることがわかります。不快な症状を我慢せずに、婦人科を早く受診してみよう、と思っていただけたでしょうか。

*1 J Med Econ. 2013;16(11):1255-66.
*2 International Journal of Women's Health 2020:12 327-338